(6月2日、紀尾井ホール)
このバッハ・カンタータ演奏会は樋口隆一先生が1974年から79年にドイツに留学したさい、バッハの楽譜全集『新バッハ全集』のために校訂した7曲のうちの3曲が選ばれているということから、先生にとって特別なものとなった。3曲とも教会暦とは結びつかない葬式や結婚式など特別な機会のために書かれている。
《主よ、深き淵よりわれ汝を呼ぶ》BWV131は何のために書かれたかはわからないようだが、内容的には絶望して苦しむ人が神に許しと救いを求めるものになっている。《神の時こそ最善の時》BWV106は、歌詞の内容から葬儀のために書かれたのかもしれない。冒頭のリコーダー2本の響きが美しかった。
明治学院大学バッハ・アカデミー合唱団と、4人のソリスト(ソプラノ:光野孝子、アルト:庄司祐美、テノール:大島博、バリロン:土田悠平)、古楽器を使用した合奏団の演奏を聴いているとドイツの小さな町の教会の礼拝に参加しているような親近感が感じられる。演奏しているのは町の音楽家や民衆による合唱団という雰囲気。バッハの教会カンタータの原点の姿を見るようでもあった。
後半は、国技俊太郎(フラウトトラヴェルソ)、渡邊慶子(ヴァイオリン)、渡邊順生(チェンバロ)をソリストとするバッハ「ブランデンブルク協奏曲第5番」から始まった。この3人に荒木優子(ヴァイオリン)、エマニュエル・ジラール(チェロ)、西澤誠治(ヴィオローネ)が加わった演奏。特に渡邊慶子のヴァイオリンと、渡邊順生のチェンバロが見事で、第1楽章のチェンバロのカデンツァは聴き応えがあった。
最後の《神の御業はすべて善し》BWV1050は、「結婚式のために書かれたのだろう」と樋口先生はアンコールでこの曲最後の合唱を指揮する前に語った。オーケストラも大規模になり、ホルン、ティンパニ、ファゴットも参加、弦セクションも増強される。この曲は祝祭的で明るく、コンサートの締めにふさわしいものがあった。