(6月2日、オーチャードホール)
リチャード・ストルツマンをソリストに迎え、モーツァルトとコープランドのクラリネット協奏曲をメインとしたコンサート。指揮は田中祐子。コンサートマスターは木野雅之。
ストルツマンも76歳。モーツァルトは椅子に座っての演奏だったが、何と素晴らしい音楽だったことか。まず、日本フィルの音が変わった。この前に田中の指揮で、モーツァルト《フィガロの結婚》序曲が演奏されたが、ストルツマンが序奏の間コンサートマスターのほうを向いて演奏を聴くだけで、弦から透明な響きが立ち上がってきた。さきほどの《フィガロの結婚》とは全く異なる響きだ。田中が指揮を変えたのかわからないが、ストルツマンが音楽に合わせ少し体を動かすだけで、オーケストラの音が変わったように思えた。
モーツァルト「クラリネット協奏曲」第1楽章主題をストルツマンが吹いたとたん、目頭が熱くなった。クラリネットとモーツァルトの涙が一緒になって流れてくるようだ。第2楽章はまさに天国的。クラリネットの繊細な弱音とはこういう音なのか。カデンツァはストルツマンの自作だろうか。天使に囲まれたモーツァルトの姿が見える。
第3楽章に入る直前、タクトを構えた田中に、ストルツマンがストップをかけた。クラリネットの管内に水分がたまったので、クリーニングスワブで処理するためだった。演奏が再開。第3楽章はモーツァルトが天上で自由に遊び、飛び跳ねているようだった。
休憩をはさんで、後半はコープランド「クラリネット協奏曲」。この曲でのストルツマンは立っての演奏。ジャズの要素が多い第2部が面白かった。最後の超絶技巧クラリネットのグリッサンドを見事に決めた。
何度目かのカーテンコールのあと、ストルツマンがアンコールを吹こうとすると、ステージ裏で次の出番を待つ日本フィルの金管が音出しを始めてしまい、田中は止めさせるのに必死だった。アンコールは「アメイジング・グレイス」。途中から日本フィルの弦もバックに参加する。ジャズ・ミュージシャンとの共演が多いだけあって、ストルツマンのアドリブは自由闊達で最高だ。
最後は、バーンスタイン《ウエスト・サイド・ストーリー》より「シンフォニック・ダンス」。ここでの田中祐子の指揮は、リズム、切れ味、ダイナミック、いずれもとてもよかった。正直ヤルヴィN響よりも乗りとしてはよかったのでは。「サムウェア」では最近古巣日本フィルにたびたび帰ってくる日橋辰朗(読響首席)のホルン・ソロが素晴らしかった。
写真:リチャード・ストルツマン(c)Lisa Marie Mazucco