シルヴァン・カンブルラン 読響 メシアン:歌劇「アッシジの聖フランチェスコ」<演奏会形式> | ベイのコンサート日記

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シルヴァン・カンブルラン 読響 メシアン:歌劇「アッシジの聖フランチェスコ」<演奏会形式>(1119日、サントリーホール)

 240人の出演者全員の意識が一つになり、理想的な公演が実現したことを喜びたい。アーティストは無論のこと、企画した方、準備に奔走した関係者の努力に敬意を表したい。読響創立55周年&メシアン没後25周年記念でもあるが、全曲日本初演の意義と共に、日本演奏史に残るコンサートになったことは間違いない。

 

 出演者全員がヒーローだが、筆頭はカンブルラン。世界で最も回数多く(24回!)この曲を指揮しているだけでなく、作品に対する愛も最も深いと想像する。その気迫と情熱のこもった、細部まで目の行き届いた指揮は、演奏のレベルを限りなく高めた。

 

ソリスト全員が素晴らしかった。中でもヴァンサン・ル・テクシエ(バリトン)の品格があり、温かく包み込むような声は、(聖フランチェスコ)にふさわしい。
エメーケ・バラート(ソプラノ)は、身体全体から発声しており、その滑らかな美しい声は(天使)そのもの。最初はオルガン席サイドから登場。最後の場面もその場で歌ったが、声の通りが素晴らしく、距離をまったく感じさせない。

ほかに、(重い皮膚病を患う人)のペーター・ブロンダー(テノール)の役柄を掘り下げた歌唱が、強く印象に残った。

 

新国立劇場合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル(指揮:冨平恭平)の合唱は、弱音の微妙さから、最大のクライマックスの厚みまで、本当に満足がいくものだった。

 読響の演奏は讃えられるべきだ。分奏を繰り返した成果が見事に発揮され、読響演奏史としても、語り継がれるべきアンサンブルを聞かせた。中でも数多い打楽器、特にシロフォン、シロリンバ、マリンバ、グロッケンシュピール、ヴィブラフォンは、鳥の声として常に複雑なリズムを叩き続ける。その正確な演奏は練習の積み重ねから生まれたのだろう。木管、金管、弦もベストを尽くした。

 

オンド・マルトノはオルガン下と、LCRCブロック後方壁際に置かれ、立体的な響きを作り出した。第5景『音楽を奏でる天使』での、「天使のヴィオール」主題と、かすかに聞こえる合唱のハーモニーは、天上の世界そのものを思わせた。

 

6景『鳥たちへの説教』での木管による様々な鳥の鳴き声は、木管の聴きどころであり、打楽器と共に鳥類博物館に迷い込んだような感覚を楽しんだ。

 第8景『死と再生』の大団円は、演奏が最高度に達し、文字通りまばゆい輝きとなって結実した。カンブルランの手が下りるまで、保たれた静寂は、聴衆もまた演奏に参加していたことを実感させた。ソロカーテンコールに登場したカンブルランが、聴衆に何度も拍手を送ったことが、それを裏付けていた。

 

 演奏時間4時間20分、休憩2回(各35分)。午後2時に始まり、終演は19時半を過ぎていたが、長さを感じなかった。カンブルランと演奏者の熱演は、時間や疲労を忘れさせた。