トゥガン・ソヒエフ N響 プロコフィエフ『イワン雷帝』 | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。


 

トゥガン・ソヒエフ NHK交響楽団 プロコフィエフ(スタセヴィチ編)オラトリオ「イワン雷帝」(1117日、NHKホール)

 N響の力をとことん引き出した名演だった。トゥガン・ソヒエフの指揮は本当に素晴らしい。地中深く杭を打ち込んだ盤石の土台の上に、きりりと引き締まった、造形美に優れた演奏を展開していく。彼の作り出す音楽は、本物だと感じさせるものがある。カリスマ性があるとも言える。絶対的な高みがある。

 

 ソヒエフを置いて今日の公演の最大の功労者は、東京混声合唱団(合唱指揮:松井慶太)に間違いない。100名の大合唱団。プロの力を見せつけられた。弱音の美しさ、揺るぎない強音、広がりが大きく奥の深いハーモニー。ロシア語がわかるわけではないが、明快なディクションだと感じられる。

 

 プロコフィエフが映画監督エイゼンシテインの映画『イワン雷帝』のために書いた音楽を、スタセヴィチがオラトリオとして編んだ作品。合唱、語り手、独唱、オーケストラからなる全20曲。
 今回は、語りを歌舞伎の片岡愛之助が担当したが、日本語のあとにロシア語の合唱がくると違和感があり、映画やドラマのせりふのように抑揚をつけた片岡の語り口は、音楽から浮いてしまうことが気になった。

 いっそ、ロシア人の原語による語りに字幕をつけたほうが、よかったのではないか。日本語は内容がわかりやすいという利点はあるが、冒頭の歴史的背景の説明は、速いうえに内容がつかみにくいため、あまり役に立つ語りではなかった。

 

 ソリストの二人、スヴェトラーナ・シローヴァ(メゾ・ソプラノ)は、潤いのある声で第3曲「大海原」を歌い、第15曲「ビーバーの歌」の不気味な子守歌も表情豊かだった。アンドレイ・キマチ(バリトン)は最後に近い19曲目「親衛隊の踊り」になって、やっと出番があるが、満を持して、張りのある余裕の歌唱を聞かせた。

 東京少年少女合唱団も加わった「終曲」は壮麗で、ソヒエフの持つオーラが光り輝いているように感じられた。 

写真:トゥガン・ソヒエフ(c)Mat Hennek