(11月24日、サントリーホール)
88歳のイェルク・デームスは長躯でがっちりとした体格。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番は、悠然とした演奏で懐が深い。速いパッセージは指がついていかないが、自在にテンポを動かし、ミスタッチはしない。小林研一郎読響はデームスの緩急に丁寧に合わせていった。
第1楽章のカデンツァの打鍵は強くないが、高音はきれいに響く。緩徐楽章の第2楽章が最も味わいがあった。トリルやアルペッジョの粒立ちが美しい。ここでは、デームスがこれまで歩んできた道を懐かしく振り返るかのような趣を感じた。第3楽章も堂々としており、カデンツァも覇気があって素晴らしい。アンコールのシューベルト「4つの即興曲作品142-2」は、デームスが到達した澄み切った境地を示していた。
ブラームスの交響曲第4番は、小林研一郎が根つめて指揮すればするほど、ブラームスが狭い部屋の片隅に押し込められていくようで、柔軟性がなくなり、重く沈殿していくようだった。
「すすり泣くブラームス」のイメージそのままに、第1楽章冒頭主題の下降音型を長く伸ばす。経過部のホルンもたっぷりと歌わせる。かつてのドイツの巨匠のような重々しい演奏を思わせる。
第2楽章アンダンテモデラートの第2主題の再現で、弦楽器が違う旋律を奏でる部分は、厚い響きではあるが、せっかくの対位法が鮮明に浮き上がってこないように感じた。
第3楽章アレグロ・ジョコーソは、力むためか、開放感がなく、響きが団子状態となり、つまった感じになる。
第4楽章のパッサカリアは、ひとつひとつの変奏やフレーズを丁寧に指揮していくが、全体を貫く太い柱が感じられず、分厚い響きは混濁し、重層的な構造がはっきりと見えてこないと思った。
シビアなレヴューとなったが、小林研一郎が目指すブラームスと、自分が期待するブラームスの違いであり、個人的な感想であることを付記しておきたい。