NHK音楽祭2016 マイケル・ティルソン・トーマス指揮サンフランシスコ交響楽団、ユジャ・ワン | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

1122日、NHKホール)

 ユジャ・ワンのピアノを聴くと、現代の若い世代の生き方を反映しているように思う。磨き抜かれた切れ味鋭い音は洗練され、都会的で、強靭なタッチは競争社会を生き抜く強さの表れともとれる。きらめく高音は、鋭敏で傷つきやすい感性だ。これらは若きショパンが書いたピアノ協奏曲第2番を表現するにふさわしい要素でもある。ユジャ・ワンの演奏は、青春のショパンと呼びたい清冽な輝きがあった。
 

2楽章ラルゲットの細かな装飾音や弱音のひとつひとつはダイヤモンドの輝きを放つ。中間部レチタティーヴォは強靭なタッチ。第2楽章から第3楽章にアタッカ(切れ目なし)で入ったのは、はっとさせる効果を生んだ。第3楽章の速いパッセージは目も覚めるように鮮やかだ。マイケル・ティルソン・トーマス指揮サンフランシスコ交響楽団は木管や弦が細やかな伴奏をつけ、コーダ前のホルンのソロも決まる。アンコールはユジャ・ワンがよく取り上げるシューベルト(リスト編)「糸を紡ぐグレートヒェン」。抒情性が深い。ユジャ・ワンは昨年聴いた時より、成長しているように思った。

 

マイケル・ティルソン・トーマス(以下MTT)指揮サンフランシスコ交響楽団(以下SFS)のブルックナー交響曲第7番は、ドイツ的重厚なブルックナーとは違い、明るく開放感に満ちていた。ユジャ・ワンのピアノの後に聴いて、これも清新のブルックナーと呼びたくなる爽やかさがあった。巨匠風ブルックナーがすべてとは思わない。こういう演奏があってもいいのではないか。

 SFS16-14-11-8-6という低弦が少ない編成。演奏水準が非常に高く、土台がしっかりとしている。弦の表情もきめ細かい。木管が滑らかで、金管の充実ぶりは頼もしい。弦、管が余裕をもって音を重ねていく。MTTの指揮も力みがまったくなく、脱力しながら自在にリードする。音楽に流動性、柔軟性、弾力がある。

 

 第2楽章アダージョは、天国に遊ぶような幸せな気分に包まれる。厳格なブルックナーでは、肩肘張った緊張感を強いられるが、MTTの指揮は音楽に抱きかかえられ天上に運ばれていくという趣だ。ハース版だが、練習番号Wの頂点では、シンバルとトライアングルが鳴らされた。ワーグナー追悼のワーグナーテューバとホルンの五重奏に深刻さはないが、美しいハーモニーをつくる。

 第3楽章スケルツォは軽やかで、トリオは優しく温かい。第4楽章フィナーレは、第3主題の金管の咆哮は気持ちよいくらい鳴る。コーダを爽やかに締めた。

明るく流れの良い、生命力に満ちたブルックナーはサンフランシスコの乾いた空気と、抜けるような青空を思わせた。

なお、テレビ放映は、1211()2100から(NHK Eテレ)「クラシック音楽館」です。

 

マイケル・ティルソン・トーマス:(c)Chris Wahlberg 

ユジャ・ワン:(c)Kirk Edwards