没後20年 武満徹オーケストラ・コンサート | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

1013日、東京オペラシティコンサートホール:タケミツメモリアル)
 
これまでもたびたび、おおがかりな武満徹追悼企画を催している東京オペラシティ文化財団だが、今回は没後20年という記念の年のため、オーケストラ作品を集めた規模の大きい企画となった。

出演は、オリヴァー・ナッセン指揮、東京フィル。クレア・ブース(ソプラノ)、高橋悠治(ピアノ)、ジュリア・ス―(ピアノ)。武満と親交のあったピーター・ゼルキンは健康上の都合で、高橋悠治が代役でピアノを弾いた。
 
 生演奏は、オーケストラ配置や奏法が見られるのと、文字通り、生の響きが聴けるので、現代音楽には有難い。
 個人的な好みの順は、「環礁─ソプラノとオーケストラのための」(1962)、「グリーン」(1967)、「テクスチュアズ─ピアノとオーケストラのための」(1964)、「地平線のドーリア」(1966)、「夢の引用─Say sea, take me! 2台ピアノとオーケストラのための」(1991)
 こうして並べてみると60年代の作品が、新鮮さ、勢い、の点でとびぬけて面白い。若き才能のほとばしり、時代の勢いや環境が作品に反映されているとも言える。

「環礁─ソプラノとオーケストラのための」(1962)は、ジェルジュ・リゲティの歌劇『ル・グラン・マカーブル』(1977)のアリアを先取りするような、クレア・ブース(ソプラノ)の歌にインパクトがあった。詩は大岡信。ブースはちょっと怪しい日本語だが、潤いと迫力のある声でとても雰囲気があった。オーケストラの密度も濃く、奏法もユニーク。

 「グリーン」(1967)は、「ノヴェンバー・ステップス」の姉妹作品であり、武満は「ノヴェンバー・ステップス第2番」とタイトルをつけたこともあった。最後の和音の消えていくさまがとてもきれい。

 「テクスチュアズ─ピアノとオーケストラのための」(1964)36人ずつのオーケストラがふたつと独奏ピアノという大きい編成。トーンクラスター風の音の塊が面白い。

 「地平線のドーリア」(1966)は、武満本人が自分の作品のなかで、一番好きだと立花隆に語っている。舞台前方にコントラバスが3台並び、それを囲むようにヴァイオリン、チェロ、ヴィオラが、そして後方にコントラバス3台、ヴァイオリン6名が位置する。中間部の映画「砂の女」で使われた、砂丘がうごめくようなコントラバスの響きがユニークだった。

 「夢の引用─Say sea, take me! 2台ピアノとオーケストラのための」(1991)
は、ドビュッシーへのオマージュではないかと思われるほど、交響詩「海」からの引用がある。武満にしては前衛性が薄い。ただ、高橋悠治とジュリア・ス―が弾く2台のピアノの響きが美しく、舞台いっぱいに並ぶオーケストラのドビュッシー風の音楽も聴きやすい。

 肝心のオリヴァー・ナッセンの指揮、東京フィルの演奏自体について、が最後になってしまった。武満に共感していることが指揮から伝わってくるというか、もっとも親しい理解者の指揮としか言えないような愛情が感じられる演奏だった。作品について先に書きたくなるということは、それだけナッセンの指揮と東京フィルの演奏が、武満作品と同化しているということでもあるだろう。

 会場はほぼ満席のように見えた。中央通路近くの席だったが、武満夫人と長女がみえていたと思う。谷川俊太郎さんもいらしていたという。池辺晋一朗さんをはじめ、批評家も多数見かけた。いつものクラシックのコンサートと客層も違う(デザイナー風、アーティスト風などなど)ことも目を惹いた。