パーヴォ・ヤルヴィ  NHK交響楽団 マーラー交響曲第8番「千人の交響曲」 | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

(98NHKホール)
「巨人」「復活」で忘れがたい名演奏を聴かせてくれたヤルヴィとN響だが、今回の「千人の交響曲」は、見事にコントロールされたオーケストラの精度と合唱のまとまりの良さには感心したものの、感動という段階まで至らなかったのは、曲の性格のためか、演奏の内容なのか。


 下記に書くように、いいところは多々あるものの、何か深いもの、唯一無二の体験とまではいかなかった。巨大な作品をまとめ上げるだけでも大変なことであり、この曲で完全燃焼することは難しいのと、ヤルヴィの、ある意味沈着冷静な音楽づくりが、そうした興奮を呼ぶ部分とは、違う側面を見せたのだろうと思う。


 第1部が速めのテンポで進められていく中、どこがどうと感じる前に、展開部まで来てしまった。展開部の合唱の二重フーガが始まると、ようやく高揚感が生まれ、演奏も熱を帯びてきた。そして終結部の盛り上がり方もさすがと思わせた。


 第2部では、法悦の教父を歌ったバリトンのミヒャエル・ナジの歌唱が際立って素晴らしい。声量、奥行き、格調、存在感、いずれも高いレベル。ソプラノのエリン・ウォールも満足すべき声量、歌唱力で存在感は抜群。ほかの歌手陣もレベルは水準だが、この二人に較べると訴えてくるものは少なかった。

テノールのミヒャエル・シャーデは、巨大なNHKホールでの大規模な曲の歌唱には、繊細すぎるのかもしれない。マリア崇拝の博士が合唱とともに歌い上げる部分では、無理が感じられた。

 N響は、弦(18型)が繊細な響きで、特にシャーデが歌い終わった後の。「愛の主題」のハープとともに奏でられる美しい旋律は、コクもあり、極上だった。


 この日最も感動したのは、最後の神秘の合唱。ここは言葉がないくらい高揚感があると同時に、音楽に心が入り、違う世界に昇りつめていく、何かを感じることができた。

 合唱は新国立劇場合唱団、栗友会合唱団、NHK東京児童合唱団で、NHKホールという巨大な会場のため、彼らの本領は発揮できなかったかもしれないが、よくまとまっていた。