[ 内容 ]
絵画とグラフイックデザインの両面で活躍する横尾忠則。
その溢れるばかりの創造的エネルギーはどこからやってくるのか?
高校時代に油絵に出会い、デザイナー時代にポップアートに衝撃を受け、八一年ニューヨークでピカソ展を見て、画家に転向する。
それから二〇年の苦闘の末に、本能に従って描くことの歓びを知る。
「美は愛を具現化したもの」と言い切る横尾が、自らの芸術的な歩みを初めて公開する。
[ 目次 ]
第1章 美術に目覚める時
第2章 ポップアートの衝撃
第3章 いわゆる一つの「画家宣言」
第4章 「滝」から「暗夜光路」への旅
第5章 僕の好きなアーティスト
第6章 横尾忠則への一〇三の質問
[ 問題提起 ]
NHK教育の番組「知るを楽しむ」で特集されていた画家の横尾忠則。
なぜか無視できない惹かれてしまう不思議な感覚の絵とそれを生み出す横尾という人間の魅力、まさしく選ばれた人っていう感じでありました。
この本は8年前に出版された横尾自身が語ったものであります。
隠居宣言の本があったりするので少し古い本でしょうか。
内容としては彼の半生を振り返りながら、活動のフィールドである現代美術について話を展開していくというものです。
その前にテレビ番組を見ているのでどちらかというとその復習的な印象をもちながらそれを読みました。
[ 結論 ]
横尾の絵は、幻想的でどこかノスタルジック、夢の中の世界のようでもあります。
土着的なイメージもあって日本というものも感じることができます。
その画面は色が鮮やかで目がチカチカしてしまうほどインパクトがあり強烈な存在感があります。
そして三島由紀夫や怪人二十面相など影響を与えた人物やキャラクターも登場し、同時代感覚な精神性やどこか微笑んでしまうようなユニークを感じさせる部分もあります。
そんな横尾の絵ではありますが、本を読んでいると描かれた世界とは裏腹に、本人はいたって常識人のような気がします。
生きることに真摯というか。
素直な姿勢を感じることができます。
たとえば“作品の完成より人間の完成がより重要”とか“芸術で悩むなんて馬鹿げている。人生で悩むのはいいですよ。ちゃんとした実生活の虚実を実感すれば、絵は自然に魂が好きなようにしてくれるわけですから。”、“絵画だけに限らず、自分のやっている仕事が、例えば野球選手にとっては野球が、一番自分を成長させていると思うんです。”や“宇宙の原理原則から外れては、思い通りには行かないのは当然だね。”といった発言には、ひとりの生活者としての姿を感じ取ることができます。
ただ横尾が横尾というキャラクターを成立させているのは、絵を描くという仕事に対してけっして妥協しない姿勢であることが、本の行間から読み取ることができます。
この文章に、横尾は選ばれた人なんてことを書いたのですが、意外と人ってこうしたほうがいいというすごく単純なことをできそうでできないというのがホントのところだと思うのです。
しかし、横尾はその単純なやるべきことを生真面目に、熱心に、情熱をもってできている人なんだろうなと。
こうしたほうがいいよ、と書かれた自己啓発的な本は巷に溢れかえっています。
それは逆にわかっちゃいるけどできないんだという人々がいかに多いかということを表わしているように見えてきます。
[ コメント ]
自分を振り返ってみれば、それがすぐにわかってきます。
それができることは実は選ばれた人ではなんかと、それができることが実は才能なのではないかと、感じるのです。
横尾忠則の絵や本を読んでそう思ったのでありました。
[ 読了した日 ]
2010年2月19日