Vol.21「東京湾景」吉田修一(著)(新潮文庫)価格(¥500) | D.GRAY-MANの趣味ブログ

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ココチよさって私らしく暮らすこと ~読書と音楽と映画と・・・Plain Living and High Thinking~

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【本の内容】

「愛してないから、こんなに自由になれるの」

「それでも、お前と一緒にいたかったんだよ」

品川埠頭の倉庫街で暮らし働く亮介が、携帯サイトの「涼子」と初めて出会った25歳の誕生日。

嘘と隠し事で仕掛けあう互いのゲームの目論見は、突然に押し寄せた愛おしさにかき消え、二人は運命の恋に翻弄される。

東京湾岸を恋人たちの聖地に変えた、最高にリアルでせつないラブストーリー。

【感想】

東京湾岸を舞台に、出会い系サイトで知り合った男女の恋を描くラブストーリー。

品川埠頭で働く亮介と、お台場で働く美緒。

そうそう、これは某女性雑誌に連載されていましたね。

湾岸の倉庫で働く労働者が主人公であるにもかかわらず、です。

過去の恋人とのいざこざや、お互いの心の奥底に引っかかるものを感じながらも、その距離を縮めようと寄り添っている二人の姿がリアルに描かれています。

亮介は過去の失恋のせいで、美緒は傷つくのが怖くて、なかなか本心をさらけ出せません。

メールで知り合ったということで、相手を完全に信用し切れないふたり。

繋がりたいのに繋がりきれず、どうしてもお互いを探り合ってしまうもどかしさ。

本との気持ちを言やあ楽なのに、何でそうできないんだろう。

誰もが共有できるテーマだからこそ、燃え上がるごとにクールになってしまう態度は、誰もが心当たりあるのではないでしょうか?

深く愛し合った二人に、本質の違いが顔を出してしまったり、永遠を信じない男は女に心を求めず、女は初めての愛に心を求めたり・・・。

今が一番大切なのに、明日を恐れて今を捨てることってあるんでしょうね。

吉田修一の作品は、泥臭い人間関係を描いた文学っぽいものと、現代人の距離感で描いた物とで雰囲気が変わりますが、どちらも楽しめると思います。

何よりも魅力を感じた所は、舞台となった東京湾岸の情景描写で、目に浮かぶように鮮やかに描かれていて、そこに詳しくない自分でさえ、その場にいるような雰囲気が味わえました(笑)

恋人たちの心理描写、特に美緒の揺れ動く心模様には理解できない部分が度々あり、あまり共感はできなかったが、傍からみればよくある男女の風景のように思えた。

さて、心と心でつながる無二の愛を求めてやまない男女の運命のゆくえ。

頭で答えを出そうとすることをやめたら、案外近くに運命はあるのかも。

「パレード」ほどの衝撃は無いものの、じっくり読ませてくれます。

ふたりの葛藤が、表現された風景が、心に残る物語ですよ(笑)