[ 内容 ]
生命の成り立ちを「進化」という縦糸と、生物の「生き方」という横糸を織り上げるように編集。
動物と植物の共通性と多様性が、分子のレベル、細胞のレベルから個体の生き方のレベルへと展開しながら生き生きと書かれている。
読んでわかるから面白い!
現代人に必須の科学的素養が身につく、検定外高校生物教科書。
[ 目次 ]
第1章 生命の誕生と進化
第2章 細胞の構造とエネルギー代謝
第3章 遺伝・生殖・発生
第4章 行動のしくみと進化
第5章 ヒトのからだと病気・医療
第6章 植物のからだと生殖
第7章 生態系のしくみ
第8章 生物学と地球の未来
[ 問題提起 ]
高校で教える「理科」のうち、ここ半世紀の間で最も進歩が著しいのが生物であろう。
特に分子生物学は日進月歩。
当然教科書もそれに追随しなければならないが、新しいものが増えたといっても古いものを削り落とすわけには行かない。
そのバランスが難しいところだ。
なにしろ生物学は、それこそ役所で言えば厚生労働省。
環境から遺伝子工学まで、その首尾範囲はえらく広い。
その点では、同書は「高校生物」とはなってはいるが、高校生以外の生物に詳しくない一般人が、生物学を鳥瞰するにはもってこいのサイズになっている。
「メンデルの法則からDNAまで」(同書の項目より)一目で眺めようという場合、本書は最適だろう。
また「生物」に関しては一応全網羅してあるので、「なんとなく生物な疑問だけど、何に分類されるんだっけ」といった、「家庭の医学」的な使い方にも向いている。
それだけに、各項目の「薄さ」が気になる。
[ 結論 ]
400ページというのは新書にしては厚いが、扱う話題を考えるとあまりに少ないのではないだろうか?
ブルーバックスには例えば「現代物理学小事典」のようにこの倍以上の厚さを誇るものもある。
無理に薄くしなくてもよかったのではないだろうか?
値段は1200円。
これも新書にしては高いが、CD- ROM添付で1500円を超えるものもあるブルーバックスである。
ターゲットの値段を1500円とし、厚さを2割増にすればさらに有用度が上がったのにと少し残念である。
1500円という値段は、現在ではAmazonのおかげで非常に意味のある価格となっており、1500円なら送料無料の「一冊買い」が出来る。
もう少し販売戦略を考えてもよかったのではないか?
各項目に関していささか薄過ぎたのではというのは、タンパク質に関する項目である。
ほとんどがDNAがらみで、本当に面白く、そしてこれから盛んになるタンパク質の科学が弱すぎるように思える。
びっくりしたのは、索引に「タンパク質」ないこと。
この手の本としては重大な欠陥にも思われるのだが。
とはいえ、片手で生物を眺め読みできる本というのは他にあまりない。
その意味ではおすすめ。
[ コメント ]
ただし生物に関して少し素養がある人は、岩波ジュニア新書の「生物の小事典」方がお薦め。
図版もこちらの方がきれいだ。
理想的なのは、「新しい高校生物の教科書」を一項目よみ、関連項目を「生物の小事典」で追うという読み方だろうか。
[ 読了した日 ]
2010年1月16日