[ 内容 ]
旅人算につるカメ算、仕事算に植木算、集合算…日常に根ざした素朴な感覚を重視する算数には、方程式や記号をあやつる数学からは決して出てこない、世界の本質を直感的につかむためのアイディアがつまっている。
その発想を身につければ、自然界のミクロなかたちから宇宙の膨張する姿までが見え、経済成長のしくみから平成不況の原因までが理解できる。
基本から中学入試問題までを例に、算数の発想の豊かな広がりを示すスリリングな一冊。
[ 目次 ]
[ 問題提起 ]
以下のように思っている方は、騙されたと思って本書を手にしてみて欲しい。
数学は普通社会人としては必要ない。
「数学」はとにかく、その前段階である。
「算数」は社会人として絶対に必要なことが納得できるから。
本書「算数の発想」は、「使える!確率的試行」の小島寛之が、あえて「算数」を再発見した本。
数理経済学者として数学を縦横に操る著者が、あえて「算数的」に物事を解いて行く過程が面白い。
[ 結論 ]
それでは筆者の言う「数学」と「算数」の違いとは何だろうか。
p. 23
数学の持つ「普遍的な操作性」は、指向や時間の節約という「効率性」、あるいは考え落としや飛躍のない「厳密性」を与えるものかも知れないが、世の中を眺める楽しみを育むのは、むしろ算数の「個別的な思考」のほうだといっていい。
「数学は社会人に不要」と言っている人も、「世の中を眺める楽しみ」までは不要と言うまい。
私は著者ほど厳密に算数と数学を分けてはいないのだが、それでもその違いが個別性と普遍性にあるということは筆者に同意する。
しかし本書は、「算数に留まっている」ことがいかに難しいかを示した書でもある。
「算数」という言葉で「本書が一般向けの簡易な数学啓蒙書の一つ」と思われた方には申し訳ないが、本書の難易度は決して低くない。
読みやすさ、という点においては例えば「不完全性定理」の方が読み進めやすい。
しかしそこがむしろよい。
それがまた「数学」を目覚めさせるきっかけとなりうるのだから。
以前にも書いた事があるのだが、妻は三角関数に出会う前は、数学が得意で好きだったのだそうだ。
しかしそこであのわけわかめな公式に出会ってすっかり「数学酔い」するようになってしまったのだという。
なんとももったいない話だ。
しかしそのキャズムを越えて、指数関数との関係を学んで、eiθ = cosθ + isinθを会得してしまえば、ものごとはぐっと楽になる。
これにπを代入したとき、あの息をのむような「オイラーの贈物」が現れることは言うまでもない。
あの山の上から下界を見下ろすような感覚、これこそが「普遍」を指向する数学の醍醐味なのである。
しかし、どんな数学も、元は算数としてはじまる。
そして数学という「飛び道具」を持ち出さなくても解決する問題は多いし、そして本当に難しいのは問題の「算数部分」でもある。
「数学化」出来た頃にはもう問題は解決しているも同然なのだ。
[ コメント ]
算数の凄さを知るには、最適の一冊。
「読む」本より「使う」本でもあるので、買って手元においておいた方がいいだろう。
値段も1000円で、脳にはとにかく財布にも優しい。
[ 読了した日 ]
2010年1月2日