[ 内容 ]
半導体を理解するということは、半導体の中の電子の動きを理解することです。
量子力学、電磁気学などのいっけん難解な半導体の動作原理を、高校レベルの基礎知識で、納得しながら理解できます。
[ 目次 ]
第1章 半導体の秘密
第2章 キャリアの数は?
第3章 半導体の中の電流
第4章 pn接合とショットキー接合
第5章 世紀の発明トランジスタ
第6章 光の世界へ
付録
[ 問題提起 ]
大学院、企業で半導体の勉強を新しく始められる人にとって 恥ずかしくて人になかなか聞けない知識の基礎の基礎が分かりやすく書かれているので、独学には最適です。
特に、レベルのやや高い本の副読本として読めば、理解は深まると思います。
光半導体の分は他と比べてやや内容が薄いですが、示唆は深いです。
企業に就職して実務経験豊富な技術者の方々からの企業内教育を受けてから思うのですが、大学生にトランジスタの用途を教えて無さすぎ、というか、 『スイッチ、増幅?なんの意味があるの、その作用?』 とか思ってる大学生、意外に多いんじゃないんでしょうか?
あと、状態密度と、フェルミ・ディラック分布の掛け算から スライム状の電子密度が生まれていることをしっかり理解している大学生がどれくらいいるでしょうか?
[ 結論 ]
本書は大半が科学の話であるが、トランジスタの発明については、そのいきさつにも触れている。
トランジスタは、PN接合を組み合わせることにより電気信号を増幅できる素子である。
AT&Tベル研究所のウォルター・ブラッテン、ジョン・バーディーン、ウィリアム・ショックレーらのグループにより発明が報告される。
リーダーのショックレーは有能な研究者であったが人格的に問題があったという。
自分自身の能力に自信をもっていて協調性を欠いていたらしい。
優秀な人材には時々見かけるパターンである。
ショックレーが目指したものは、電界効果トランジスタのタイプ。
半導体の両端に2つの電極を付け、中間にもう1つの電極を付けて、中間の電極に電圧をかけることにより両端に電流の経路を作るといったものである。
当時は、この経路ではなかなか増幅作用が得られなかった。
これをバーディーンとブラッテンが実験により克服する。
半導体もシリコンからゲルマニウムを採用する。
ゲルマニウムとプラスチックの三角形の頂点を押し付けられることから点接触型トランジスタと呼ばれる。
1947年、真空を使わずに固体だけで増幅装置を実現したのである。
尚、バーディーンは、この実験にはショックレーの貢献はないと語っている。
トランジスタの発明が公表されたのは1948年。
ベル研究所はチームワークの勝利であると公表。
記者会見ではショックレーが質問に答えたので発明の中心人物として映った。
その後、特許論争でショックレーと二人の間に溝ができた。
点接触型トランジスタは製造が難しく、量産しても不良の山を作る。
力学的にも壊れやすいなどの欠点を持っていた。
ショックレーは、トランジスタの開発を主導してきた自負心の一方で、点接触型トランジスタの実験には関わっていない後ろめたさがあったのかもしれない。
休暇を返上し、わずか1ヶ月後に接合型(バイポーラ)トランジスタを発明した。
バーディーンとブラッテンは、特許からみても増幅作用がなぜ起こるかの明確なイメージを持っていなかったという。
一方、ショックレーは、P型からN型、そしてP型へと戻る電流の経路から増幅作用が得られるという本質を見抜いていた。
1955年ショックレー半導体研究所が設立される。
これが後年のシリコン・バレーの起源となる。
順調にスタートしたかに見えたショックレー半導体研究所も、間もなく部下との対立が始まる。
その中の、ゴードン・ムーアとロバート・ノイスはインテル社を設立する。
ノイスは集積回路の発明者としても有名である。
ムーアはムーアの法則を提唱した人である。
ムーアは、ショックレーは半導体の中の電子の動きを直感的に把握する優れた能力を持っていたが、人を動かすのは下手だったと評している。
ショックレー研究所は、やがて経営に行き詰まるが、シリコン・バレーという米国半導体の中核を生み出した貢献は大きいと語られる。
[ コメント ]
小長井誠の『半導体物性』もこれよりレベルの高い本ですが、すさまじく理解の深まるいい本だと思います。
あわせて読むと基礎は固まると思います。
[ 読了した日 ]
2010年1月1日予定