[ 内容 ]
アキレスと亀から不完全定理まで、かろやかに笑う哲学講義。
「無限は数でも量でもありません」とその先生は言った。
ぼくが出会った軽くて深い哲学講義の話。
[ 目次 ]
第1週 学生が二人しかいなかったこと・教室変更
第2週 気まずい時間・アキレスと亀・自然数は数えつくせない
第3週 チョコレートケーキ・パラドクスへの解答・可能無限と実無限
第4週 全体と部分・キリンとカバ・次元の崩壊
第5週 実数・独身製作器としての対角線論法・喫茶店のネコ進法講義
第6週 実数とは何か・ピタゴラスと豆大福・余興
第7週 マジタ・ベキ集合と概念実在論・羊羹の思い出
第8週 一般対角線論法・無限の無限系列・カントールのパラドクス
第9週 土手の散歩・ラッセルのパラドクス・嘘つき・自己意識の幻想
第10週 直観主義・パラドクス断罪・虚構と排中律・ブラウアーの手袋
第11週 暑い部屋・形式主義はいかにして排中律を取り戻そうとしたか
第12週 ゲーデルの不完全性定理・G・インドのとら狩り
[ 問題提起 ]
ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』の訳者解説で知って以来、野矢氏の著作のファンで、ときどき思い出したように読んでいる。
本書のテーマは「無限論」。
[ 結論 ]
高校の数学で無限級数を習ったくらいで、「無限」がこんなに奥が深いものだとは、この本を読むまで知らなかった。
ゼノンのアキレスと亀のパラドックスはよく知られているが、無限級数が発見されて、ゼノンのパラドックスは解けた、と聞いていた。
しかし、野矢氏は冒頭からこれをひっくり返す。
アキレスは亀に1/2,1/2+1/4,1/2+1/4+1/8,と少しずつ追いついていく。
しかし、アキレスが亀に追いついたその瞬間、最後に足した数はなんだったのだろう?
無限に足せば1になる、ということと、無限の作業が終わる、ということは全く別である。
無限級数はけっしてゼノンのパラドックスを説明しない。
なかなか刺激的である。
ボクとタカムラさんとタジマ先生の「架空の講義」という形式をとっているので、説明が一方的にならず、行きつ戻りつしながら進む。
『哲学の謎』でも同様の対話形式がとられたが、この方法が難解な話の理解を助けるのに役立っている、と思う。
[ コメント ]
筆者は無限論についてはまったく初めて読んだので、この本に書いてあること自体の善し悪しはわからないし、これで無限論が理解できたとも全く思わない。
しかし知的な好奇心を存分に刺激してくれる、という意味では、大変に面白い本であった。
[ 読了した日 ]
2009年3月20日