[ 内容 ]
「美しい数学ほど、後になって役に立つものだ」数学者は、はっきりと言い切る。
想像力に裏打ちされた鋭い質問によって、作家は、美しさの核心に迫っていく。
[ 目次 ]
第1部 美しくなければ数学ではない(恋する数学者たちの集中力 数学は役に立たないから素晴らしい 俳句と日本人の美的感受性 永遠の真理のもつ美しさ 天才数学者の生まれる条件 ほか)
第2部 神様が隠している美しい秩序(三角数はエレガントな数字 数学は実験科学のようなもの 幾何と代数の奇妙な関係について ヨーロッパ人とインド人の包容力 素数=混沌のなかの美の秩序 ほか)
[ 問題提起 ]
中身は、藤原さんと小川さんの対談集である。
「ITアーキテクトは、美しいシステムの設計と工法に責任を持つ人である」。
これが私の主張だ。
美しいシステムを考察する際に必要なものは、数学的、芸術的、哲学的なセンスである。
どんな製品でも、機能性を追及すると最後には美しい姿になる。
世の中には、設計の仕事に携わる人は多く存在するが、美しい設計を目指す人は少ない。
構造物の美しさは、機能的にも数学的にもこだわり続けて得られるものだ。
私は本書をITエンジニアの方々に推薦したい。
数学の身近さ、美しさ、自由を教えてくれる。
そしてそれを通して、美しいシステムを追及することの大切さや素晴らしさを示唆しているようにも思うのだ。
[ 結論 ]
一般的に数学は“硬く”特別な学問のようにも見える。
しかし、必ずしもそうではないということが本書を読むとわかってくる。
システム設計も数学と同様に硬そうなイメージで捉えられているが、もっとやわらかく自由なアプローチがあっても良いではないかと私は思っている。
数学者の仕事は、答えが見つかるかどうか分からないことを何年もかけて追求する。
また、数学はすぐに世の中に役立つかどうかは分からないが、数百年後に大きな価値を生む可能性もある。
そして数学は「それが数学だ」と教えてくれている。
数学とは、純粋な学問である。
「完全数」の話は特に面白い。
完全数とは、自分自身の約数の和が、自分自身になる自然数のことである。
往年の大投手、江夏豊の背番号は28だったが、28は完全数である。
28の約数は、1、2、4、7、14であるが、1+2+4+7+14は、28になる。
一番小さな完全数は6、次が江夏の背番号である28、次は496、次は8128。
その次は8桁になる。
無限に存在するかどうかは、わからないそうだ。
最後に近い章では、オーストリア人のゲーデルが1931年に発表した「不完全性定理」について触れている。
これを読んで私は感動した。
不完全性定理は「数学は不完全だ」ということを証明した、数学者にとっては嫌な定理である。
1931年までは、「数学上の全ての命題は、正しいか嘘っぱちかどちらかに決まっている」ということが当たり前だったという。
つまり、「正しいことはいつか必ず論理的に証明できる」という考えだった。
しかしゲーデルは、「ある種の命題は、どう頑張っても真とも偽とも判定できない」と証明したのだ。
不完全性定理で証明されたことは、人生そのものだ。
最初から真偽が決まっているわけではない。
私たちは不完全性定理のことを知らないと、「すべてが数式で決まっては困る。いろいろなものが存在して良いのでは」と数学に異を唱えたい気持ちになる。
哲学の観点で見れば、最初から真偽が決まっているわけではない、ということはわかりやすい。
一方、それが数学の世界でも証明されているのは興味深い。
[ コメント ]
本書で藤原さんと小川さんのお二人は、人生の目的は金じゃないよ、ともおっしゃっている。
「物や金を目標とするような現代人」のくすりになる書籍である。
私は本書から、純粋に何かを取り組むことの素晴らしさを感じ取ってほしいと思う。
美しい設計を目指すエンジニアに向けて。
[ 読了した日 ]
2009年2月14日