【乱読NO.1385】「北京 都市の記憶」春名徹(著)(岩波新書) | D.GRAY-MANの趣味ブログ

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[ 内容 ]
北京は都市としてどのように発展してきたのか。
黄金色に輝く故宮、青空に映える天壇、水と緑の頤和園、悠久の歴史を示す万里の長城、華やぐ王府井・前門界隈、庶民の哀歓を伝える胡同。
発展を続ける魅惑の都市誕生の秘密を歴史と現在から読み解く。
発見の驚きと喜びに満ちあふれた最新の都市案内。
写真・地図多数。

[ 目次 ]
壁に囲まれた都市-歴史をさぐる
盛り場歩き-都市の欲望
天安門広場-皇帝の身体・主席の遺体
故宮の秘密-権力を視覚化する
胡桃のなかの世界-密室から世界へ
什刹海とその周辺-古都の余香
天壇へ-天を祀る場所
水と庭園-北海公園と頤和園
西山のふもと-郊外の風景
万里の長城と明の十三陵-明文化の残光
博物館さまざま-ものと記憶
北京に住んだ人々-都市の身体

[ 問題提起 ]
なぜ今、北京なのか。

やっぱりオリンピック向けのガイドブックかな、と思われる。

確かにその要素も否定できない。

しかしずっしりと重いガイドだ。

最近の新書の軽量化に逆行して、歯ごたえのある都市物語となっている。

[ 結論 ]
まず北京原人以来の長い歴史が語られる。

さまざまな異民族が北京という舞台にあらわれては消えていった。

その中で中国人は奥深い歴史観を育てていったようだ。

今は、この体制が絶対的で、永遠につづいていくように見えても、やがて変化があらわれるだろう、と予想しているのだ。

この本の著者も中国の文化や学問の底知れぬ奥深さを感じ、できるだけ北京という都市の全体を伝えようとする。

そして今、北京の都市物語を書くことは、中国が変換期にあり、とりあえずここまでまとめておかなければ、という切迫した気持ちも伝わってくる。

オリンピックという異文化の交流の場が北京で開かれることになった時、日中の対立に雪解けがもたらされるはずであった。

だがそれは、異文化の対立を激化させることになっている。

この本は北京の歴史と文化、都市の魅力を克明に、しかも淡々と案内してゆきながら、一時的な亀裂や部分的な差異だけで、中国を判断してしまうことを残念がっているように思える。

中国は今、あまりに急激な近代化、西洋化の波にさらされている。

それによって、中国の人たちがどうなっていくのだろうか、と著者は心配している。

北京の古建築や庭園について語る時は、楽しげだ。

[ コメント ]
私もかつて訪ねた頤和園などが浮かんできて、北京が甦ってくる。

実は中国の人々も最近やっと自分たちの歴史や古い文化財を考えはじめたところだ。

オリンピックで北京を訪れる人たちにとって、この本はとてもいいガイドになるだろう。

祝祭が終わった後で、北京についてもっと深く知ろうとし、都市の記憶を大事にしようとする読者たちに役立つだろう。

[ 読了した日 ]
2009年1月27日