ミルジュラヴァ盤アブサロムとエテリ | Intermezzo ~幕間のおしゃべり~

Intermezzo ~幕間のおしゃべり~

しがない歌劇愛好家Basilioの音盤鑑賞録。
備忘録的に…

既にばじりお撰集でも呟きましたが、もう少し全体的な感想を。


パリアシュヴィリという作曲家、完全にノーマークだったのですが、ジョージア国民楽派の父とされているのだそうで、オペラとしては本作と『薄暮』が代表作になるようです。全体に西欧の手法に乗っ取りつつ、聴こえてくる響きはかなりオリエンタルな色彩が強い。どのぐらい強いかというと、ボロディンをはるかに越えてハチャトゥリヤンを煮詰めて伊福部の香りを添えた感じと言えば程度は伝わるでしょうか?特に婚礼の場面の合唱やバレエは民博の音楽展示で聴こえてきそうですらあります。映画音楽のような印象も受けます。


これ以外で聴いたことのない曲なので指揮者のミルジュラヴァやオケの良し悪しははっきりとはわからないのですが、珍しいものをほどほどにやっているというレベルではなく、自分たちの骨肉となった作品を真摯に演奏した高水準なものと思います。木管ソリストのひなびた音色などとてと良いですね。バレエはもう少しテンションが高くてもよいと思いましたが、勢いがつきすぎるとガヤガヤして終わってしまう気もするので難しいですね。


基本のストーリーは「アブサロムという王子が森の中でエテリという美女を見初めるが、実は従者のムルマンは彼よりも前にエテリに恋をしていて……」という悲劇なのですがちょこちょこちょい役がたくさんあってややぼんやりした感じ。まあ昔話に題を取った作品っぽいです。

題名役のアブサロムはなんというかひ弱な王子様なんですが聴きばえのする歌が多くなかなか大変な役だと思います。ソトキラヴァというテノールは初めて聴いたのですが、ネレップを思い出させるようなドラマティコで、高めで軽めに聴こえつつ音圧がかなり強いタイプで役柄にはまっています。ただ投げやりに歌うのではなくしっかり叙情的にも聴かせてくれます。アリア集もあるそうで気になります。もう1人のタイトルロールであるエテリはタチシヴィリというソプラノで、こちらも冒頭の民謡調の歌から派手になりすぎない素朴な感興があります。アリアが1つ削られていることもあり、似たような響きの女声役がいくつかあることもあり若干埋没気味なのが惜しい。そういう意味ではマリクを歌うフコニアの方が儲け歌をもらっている感じ。短いながら装飾的な動きの多いアリアを爽やかに聴かせます。屈折した悪役(というには若干煮えきらないのですが)のムルマンは、キクナーゼというこちらもしっかりした声のバリトンが歌っていてお見事です。重たい声だと思うのですがアブサロムとの重唱のかなり細かいパッセージも余裕をもってこなしています。


グルジア語というハードルもありますからそうそう演奏機会はないと思いますが、最近またジョージアの歌手たちも出てきているのでアリアだけでも歌って欲しいものです。また、このレコードもせめてCDになればよいのですが。