小川洋子『サイレントシンガー』文藝春秋 2025
なんという静謐をたたえた小説なのだろう。
風のような、
水のような、
ひめやかな、ひそやかな物語。
読んでいるひとすべてが浄化されていくような・・・
写真:吉田周平
装丁:中川真吾
◆本の紹介
内気な人々が集まって暮らすその土地は、
“アカシアの野辺”と名付けられていた。
野辺の人々は沈黙を愛し、
十本の指を駆使した指言葉でつつましく会話した。
リリカもまた、言葉を話す前に指言葉を覚えた。
たった一つの舌よりも、
二つの目と十本の指の方がずっと多くのことを語れるのだ。
やがてリリカは歌うことを覚える。
彼女の歌は、どこまでも素直で、これみよがしでなく、
いつ始まったかもわからないくらいにもかかわらず、
なぜか、鼓膜に深く染み込む生気をたたえていた。
この不思議な歌声が、リリカの人生を動かし始める。
歌声の力が、さまざまな人と引き合わせ、
野辺の外へ連れ出し、そして恋にも巡り合わせる。
果たして、リリカの歌はどこへと向かっていくのか?
名手の卓越した筆は、沈黙と歌声を互いに抱き留め合わせる。
叙情あふるる静かな傑作。

