髙村薫『墳墓記』新潮社 2025年刊
装画:高屋永遠「水面の春」
このうす紅の諧調に黄・青・灰色がひそみ、
そこに銀の箔押しの表題。
ひかりを反射するのか、角度によっても金色に見えて。
(カバーの紙があまり使用されない不思議なき
書籍として、とてもうつくしい。
装幀は新潮社装幀室。
男、70歳を迎え自死できず、
いま現在、管につながれ、
意識だけが、在る。
その意識の塊が、時間・空間を自在に飛び交い、
自身のことから、ふっと、老いた定家へ、
万葉へ、源氏物語へ、平家物語へ、と。
そこは古文となり、
現代文と溶けあって行き来する。
さらにすごいのは数多くひかれる和歌も、
地の文に融合する。
散文の中に韻文が何の違和感もなく、在る。
そして<意識>、そのものだけで成り立った小説、
孤絶の美。
鮮烈な初めての読書体験です!
◆帯
時空を超え、鮮烈に蘇る古の声、声、声。
髙村文学の極限と愉楽がここに。
老いて死に瀕した一人の男が、意識の塊と化して長い仮死の夢を見る。
そこに沸き立つのは高らかな万葉びとの声、
野辺送りの声、笑い転げる兎や蛙の声、
源氏の男君女君の声、都を駆けるつわものたちの声、
定家ら歌詠みたちの声、そして名もなき女たちの声――。
古文と現代文の自在な往還を試みた独創的文体、渾身の長篇小説。