松井今朝子『一場(いちじょう)の夢と消え』文藝春秋 2024年
あの近松門左衛門を描いた大作。
近松の『曽根崎心中』『冥途の飛脚』『国性爺合戦』『女殺油地獄』などなど、
文楽、歌舞伎で今も上演されつづける名作を書いた
江戸の大劇作家です。(「日本のシェイクスピア」とも言われる、とか)
戯作者、役者、舞台にかける者、そのまわりの人々。
<芸>に生きる覚悟が、
その虚々実々、
その生きよう、
その息遣いまでもリアルにつたわって、
みごとな小説となって。
もう、一気に、読んでしまいました♪
美しい桜の装画は加山又造。
その名声と知名度にもかかわらず近松を主人公とした小説は意外なほど多くはありません。
それもそのはず、生涯に150を超える作品を書いたとされる近松を十全に描こうと思えば、史料の渉猟だけでも気の遠くなるような大変さ。なにより、演劇や作家稼業の表も裏も知り尽くさなくては日本の近世演劇のベースを築いた男を生きた小説にすることは叶いません。その意味で、いま近松を描くには松井さんを措いて他になしと言えるのかもしれません。
しかし想像以上の大変さで、松井さんでさえも連載中に音をあげそうになったほどとか。それでもご苦労の甲斐もあり、出来あがった作品を読めば、単に近松の生涯が分かるという以上に、いまでがリアルに耳朶に響くようです。
近松小説の決定版という言葉だけでは足りない、芸道に生きる者のたちの境地を描ききった芸道小説の最高峰といえる本作。