「陽春」「猫」『月に吠える』より <萩原朔太郎を朗読する>  | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

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第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。

 

 

 

 

 

 

 

 

<萩原朔太郎を朗読する>

 

『月に吠える』から<春>の詩を2編。

 

「陽春」と「猫」です。

 

 

 

   陽春

 

 

ああ、春は遠くからけぶって来る、

ぽっくりふくらんだ柳の芽のしたに、

やさしいくちびるをさしよせ、

おとめのくちづけを吸ひこみたさに、

春は遠くからごむ輪のくるまにのって来る。

 

 

ぼんやりした景色のなかで、

白いくるまやさんの足はいそげども

ゆくゆく車輪がさかさにまわり、

しだに梶棒が地面をはなれ出し、

おまけにお客さまの腰がへんにふらふらとして、

これではとてもあぶなそうなと、

とんでもない時に春がまつしろの欠伸をする。

 

 

 

 

   猫

 

 まつくろけの猫が二疋、

なやましいよるの屋根のうへで、

ぴんとたてた尻尾のさきから、

糸のやうなみかづきがかすんでゐる。

 

 

『おわあ、こんばんは』

『おわあ、こんばんは』

『おぎやあ、おぎやあ、おぎやあ』

『おわああ、ここの家の主人は病氣です』