「助六」の通人、閉場では勘三郎・・・ 三津五郎さんの講演「新しい歌舞伎座と歌舞伎の未来」その弐 | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

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第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新しい歌舞伎座と歌舞伎の未来」

 

十代目板東三津五郎丈の講演 その弐

 

その誠実なお人柄がにじみ出た語り口、

 

いまでも、なつかしく耳に残って。

 

(家元は三津五郎さん)

 

 

 

 

 成田屋(十二代 市川團十郎)さんのこと


・世の中の普通の人とちゃんと話ができる人だった。

 

役者というのは基本的にわがままで、自分が可愛い。

 

けれども成田屋さんは自分のことよりも歌舞伎のこと、

 

ひいては日本の文化を大事にしていた。



・歌舞伎のこれから、歌舞伎が世の中とどうつきあっていくか、どう発展していくか。

 

そのために大事な方を失った。



・歌舞伎の舞台には両脇に「大臣柱」という大事な柱がある。

 

これが歌舞伎の小屋のシンボルだが、ほかの形態の芝居では邪魔になる。

 

では新しい歌舞伎座では取り外し可能にしたらどうだという提案があって、

 

会議で役者たちはそれで合意しそうになったのだが、

 

成田屋さんが「この劇場は1年12カ月を通して、

 

歌舞伎をやるためのものではないのですか。

 

なぜほかのものをやるという前提で話が進むのか理由を教えてください」

 

(口調を真似てる)とビシっと言った。

 

そういうことが言えるのが成田屋だった(結果的に「大臣柱」はもとのままに)。



・成田屋はなぜか舞台で自分の役名を台詞で言ってしまう癖があった(笑)。

 

海老蔵時代に自分が桜丸なのに「桜丸」と呼んだり、

 

「上意討ち」では自分が篤之進なのに、

 

「伊三郎」と呼びかけなきゃならないところを

 

ずっと「篤之進、篤之進」と

 

呼びながら花道を引っ込んだり(笑)。



・舞台の開幕前に役者は「声だし」という発声練習をそれぞれにやるものだが、

 

なぜか成田屋はそれが「ゆう~や~け、こやけぇ~の~♪」だった。

 

(團十郎さんのものまねに場内爆笑)

 



○ 新歌舞伎座、こけら落とし公演について


・6月の「助六」で自分は通人。

 

これは閉場の時は中村屋がやった。

 

演目が発表された時も、彼がやった通人を自分が、

 

開場で初役でやるのかという思いがあった。

 

けれども、成田屋さんの股をくぐるのが楽しみだった。

 

それが成田屋までいなくなり、息子さんがやることになった。

 

通人は笑わす役だが、複雑な気持ちになるだろうと思う。



・開場記念の演目に「喜撰」が選ばれたのは私どもの家にとっては嬉しいこと。



・2月26日は菊之助くんの結婚した日で、

 

その前には歌舞伎座の後ろのタワー最上階で竣工式があった。

 

翌日が成田屋の本葬。

 

高層エレベーターで上がったり下がったりするみたいに、

 

感情の起伏が激しい日々を過ごした。



・その前には新しい歌舞伎座で音響テストがあった

   (家元は1月とおっしゃったが、実際には2月初め)。

 

あの時、役者たちは初めて新しい歌舞伎座に入った。

 

きょとんとした。

 

玄関の感じも、舞台の寸法も花道の寸法も同じ。

 

客席の鳳凰丸の布の感じも同じ。

 

花道の横の木は前のをそのまま。

 

壁の感じも天井のあかりの感じも。


 「皆さんはどうですか?」と客席に。

 

前の歌舞伎座の復元がよかったか、

 

それとも前の感じを残しつつ新しい感じがよかったか。

 

(客席はなんとなく、復元がいいというような空気に)。

 

「そうですか、それなら満足されると思います」。



・(家元は)どちらかというと、新しい歌舞伎座を守らなくてはと思っていた。

 

平成25年の新開場というよりは、昭和26年の開場に戻された感じがする。



・舞台からの眺めはほぼ同じ。



・こけら落とし公演について、

 

三部制で時間が短いのに「ちょっと高いよね」という声も聞かれる。

 

4~6月は建物人気でお客様が来るだろう。

 

スカイツリーのようなもので。そのあとはどうか。

 

我々が腰を据えてかからなくてはならない。



 歌舞伎の未来


・心配していること。世の中がイベント化しているのではないか。

 

興行も、イベント的なところはマスコミも客もついて興行としては安定するが、

 

通常公演は苦戦している。

 

これからの歌舞伎にとってこれが課題。



・今までは、派手な冒険や挑戦をしても、

 

一方で真ん中で揺るぎない柱があった。

 

しかしこのままでは冒険・挑戦の部分ばかりになって、

 

真ん中の柱がなくなるんじゃないかと心配している。



・役者の芸を観ることが、本来の歌舞伎。

 

派手な仕掛けは付録的なものだったが、

 

それが逆転してしまわないか心配している。



・歌舞伎を楽しんでいただくのも大切だが、

 

同時に厳しい目で見て叱咤していただきたい。

 

歌舞伎を育てていただきたい。

 

 

                  (続きます)