月の雫が凝ったような小説♪ 歌人・川野芽生『無垢なる花たちのためのユートピア』東京創元社刊 | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

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第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

川野芽生『無垢なる花たちのためのユートピア』東京創元社 2022年刊

 

 

詩はあなたを花にたぐへて摘みにくる

 

            野を這ふはくらき洛陽の指      川野芽生  

 

 

歌集『Lilith』の短歌。

 

その歌人による小説『無垢なる花たちのためのユートピア』には

 

六篇の短編がおさめられています。

 

 この小説集の紹介ではこのように

 

「純粋無垢な少年たちとその指導者を乗せ、天空をゆく船。

 

最も楽園に近いはずの船上で起きた悲劇と、

 

明らかになる真実とは(「無垢なる花たちのためのユートピア」)。

 

 

「人間が人形へと変化してしまう病が流行った村で、

 

ひとり人間のままの姿で救出された少女は、

 

司祭のもとで手厚く看病される。

 

しかし怪我が癒え、うつくしさを取り戻した少女は

 

限りなく人形に近づいているようで......(「人形街」)。」

 

 

他に

 

 

「白昼夢通信」

 

「最果ての実り」

 

「いつか明ける夜を」

 

「卒業の終わり」

 

 

どの小説も写実的であったり、

 

リアリズムではない設定で、

 

一見、ファンタスティックなようですが、

 

現実を、その偽善や覆い隠したものを

 

全面に描き出して、とても鋭利。

 

そのデストピアを記すことばは

 

透明度の高い水晶のよう、

 

月の雫が凝ったかのよう。

 

不思議な読後感へいざなわれる小説たち。

 

 

川野芽生は言う

 

「わたしたちの認識は言葉でできている。(略)

 

言葉によって世界を作り変えることもできるはずである。

 

<現実>の遺伝子を組み替える言葉、

 

それが幻想だとわたしは考えている」と。

 

 

装幀:柳川貴代

 

装画:山田 緑

 

 

 

◆川野芽生プロフィール

 

1991年神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科在籍中。

2017年、「海神虜囚抄」(間際眠子名義)で

第3回創元ファンタジイ新人賞の最終候補に選出される。

2018年、「Lilith」30首で第29回歌壇賞を受賞し、

2020年に第一歌集『Lilith』(書肆侃侃房)を上梓。

同書は2021年に第65回現代歌人協会賞を受賞。2022年、

短篇集『無垢なる花たちのためのユートピア』(東京創元社)