<見る>とはなにかと自分へ問いかける本。
「いつもの風景が、その姿を変える
単なる偶然、でも、それは意味ある偶然かもしれない。
世界各地へ出かけ、また漱石『夢十夜』や三島『豊饒の海』、
芭蕉など文学の世界を逍遥し、
死者と生者が交わる地平、
場所に隠された意味を探し求める。
能楽師・安田登が時空を超える精神の旅へといざなう。」と本の紹介。
安田登(やすだ のぼる)さんは能楽師・ワキ方。
「平家物語」「太平記」100分で名著の講師として
ご存知の方も多いのでは。
能のワキは「分く」を語源とし、
この世とあの世、生者と死者との境界にいる人。
ワキによって観客・現実の人を
<「ここ」で霊・死者と出会わせてしまう>と安田さんは言う。
芭蕉の「おくのほそ道」では
「芭蕉は自分の旅を能に見立てている」との指摘。
その詞章、僧形での旅、連句への言及などなど、
じつに興味深い。
そして「芭蕉は夢路の旅を続けながら、
一歩一歩、おくのほそ道に足を踏み入れていき、
その人格の変容とともに俳諧は完成してゆく」
【もくじ】
■ はじめに
■ 旅
敦盛と義経
奄美
チベットで聴いた「とうとうらり」
復讐の隠喩
人を待つ男
孤独であることの勇気
ベトナムは美しい
生命の木
■ 夢と鬼神——夏目漱石と三島由紀夫
『夢十夜』 待ちゐたり
太虚の鬼神——『豊饒の海』
■ 神々の非在——古事記と松尾芭蕉
笑う神々——能『絵馬』と『古事記』
謡に似たる旅寝
非在の蛙
■ 能の中の中国
西暦二千年の大掃除 時を摑む
麻雀に隠れた鶴亀
超自然力「誠」
神話が死んで「同」が生まれる
■ 日常の向こう側
心のあばら屋が見えてくる
レレレのおじさんが消えた日
掃除と大祓
死者は永遠からやってくる
■あとがき
◆安田登(やすだ・のぼる)
下掛宝生流能楽師。1956年千葉県銚子市生まれ。
高校時代、麻雀とポーカーをきっかけに
甲骨文字と中国古代哲学への関心に目覚める。
能楽師のワキ方として活躍するかたわら、
『論語』などを学ぶ寺子屋「遊学塾」を、
東京(広尾)を中心に全国各地で開催する。現在、関西大学特任教授。
著書に『あわいの力 「心の時代」の次を生きる』、
シリーズ・コーヒーと一冊『イナンナの冥界下り』(ともにミシマ社)、
『能 650年続いた仕掛けとは』(新潮新書)、
『あわいの時代の『論語』 ヒューマン2.0』(春秋社)、
『野の古典』(紀伊國屋書店)など多数。