平松洋子『父のビスコ』小学館 2021年刊
食と生活、文芸と作家などをテーマに
執筆した著者。
<食>に関する著作をこれまで読んできました。
「おあげさん」はあの油揚げに焦点をあてた本。
この「父のビスコ」では
祖父・祖母、父母の記憶をていねいに記す、
初の自伝的エッセイ集。
あくまでの筆致はおさえて、
その滋味あふれる文章は、
その本質をさらりと、それでいて深い。
タイトルとなった「父のビスコ」にうたれました。
親しみはあってもあまり話すことのなかった「父」。
入院から介護施設へ。
そのおりの父の発言が胸に刺さる。
「知りたいことまだたくさんある。
だから死ぬわけにはいかん」
「ここの生活には目新しいものはないほうがいい」と
上等な松花堂弁当にそっと箸をおく。
温かい鰻重には
「わあ鰻!? 柔らかい宝石を食べているようだ」と
相好をくずす。
そのお父上が亡くなられたのが1月23日。
◆目次
「父のどんぐり 」
「母の金平糖 」
「風呂とみかん」
「ばらばらのすし」
「やっぱり牡蠣めし」
「悲しくてやりきれない」
「饅頭の夢」
「おじいさんのコッペパン」
「眠狂四郎とコロッケ」
「インスタント時代」
「ショーケン一九七一」
「『旅館くらしき』のこと」
「流れない川」
「民芸ととんかつ」
「祖父の水筒」
「場所」
「父のビスコ」
『旅館くらしき』創業者による名随筆を同時収録。