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梯久美子著『父ありて』文藝春秋 2022年刊
9人の書き手とその父をくっきりと描く。
その筆致は、丹念にして潔い。
そして梯は「“父と出会うのは”死んでから」という。
その娘たちは
渡辺和子、斎藤史、島尾ミホ、石垣りん、茨木のり子
田辺聖子、辺見じゅん、萩原葉子、石牟礼道子。
その父との邂逅への道は
「愛」、そして「憎」が娘たちを
<書く人>へと鍛えてゆく。
「生きる」ということは
「書くこと」であった娘たち。
その父との歳月が差し出され、
内奥に触れてくる作。
◆目次 (本の紹介より)
・渡辺和子
目の前で父を惨殺された娘はなぜ、
「あの場にいられてよかった」と語ったのか?
・齋藤 史
二・二六事件で父は投獄された。
その死後、天皇と対面した娘が抱いた感慨とは――。
・島尾ミホ
慈愛に満ちた父を捨て、
娘は幸薄い結婚を選んでしまい、それを悔い続けた......。
・石垣りん
四人目の妻に甘えて暮らす、老いた父。
嫌悪の中で、それでも娘は家族を養い続けた。
・茨木のり子
時代に先駆けて「女の自立」を説いた父の教えを、娘は生涯貫いた。
・田辺聖子
終戦後の混乱と窮乏のなかで病み衰えた父の弱さを、
娘は受け入れられなかった。
・辺見じゅん 父の望む人生を捨てた娘は、
父の時代――戦争の物語を語り継ぐことを仕事とした。
・萩原葉子
私は、父・朔太郎の犠牲者だった――。
書かずには死ねないとの一念が、娘を作家にした。
・石牟礼道子
貧しく苦しい生活の中でも自前の哲学を生きた父を、
娘は生涯の範とした。
・「書く女」とその父 あとがきにかえて