萩原朔太郎 詩「新前橋駅」 | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

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第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新前橋駅は

 

上越線、両毛(りょうもう)線の


乗り入れているJRの駅。

 

私もよく利用しています。

 

 

 


    「新前橋駅」詩碑




朔太郎の時代には

 

まさに野原の中でしょうか。


いまはロータリーの中に


「新前橋駅」の詩碑が設置されています。




 新前橋駅
                       萩原朔太郎



野に新しき停車場は建てられたり

便所の扉(とびら)風にふかれ

ペンキの匂ひ草いきれの中に強しや。

烈々たる日かな

われこの停車場に来りて口の渇きにたへず

いづこに氷を喰(は)まむとして売る店を見ず

ばうばうたる麦の遠きに連なりながれたり。

いかなればわれの望めるものはあらざるか

憂愁の暦は酢え

心はげしき苦痛にたへずして旅に出でんとす。

ああこの古びたる鞄をさげてよろめけども

われは瘠犬のごとくして憫れむ人もあらじや。

いま日は構外の野景に高く

農夫らの鋤に蒲公英の茎は刈られ倒されたり。

われひとり寂しき歩廊(ほうむ)の上に立てば

ああはるかなる所よりして

かの海のごとく轟ろき 感情の軋(きし)りつつ来るを知れり。

 


          『 純情小曲集』 (1925年刊)「郷土望景詩」より

 
()はルビ、表記ができないのため()の表記。





◆郷土望景詩の後に

「新前橋駅」

朝、東京を出でて渋川に行く人は、
昼の十二時頃、新前橋の駅を過ぐべし。
畠の中に建ちて、そのシグナルも風に吹かれ、
荒寥たる田舎の小駅なり。