リヒャルト・シュトラウス作曲「サロメ」の演奏会形式の公演。
シャルル・デュトワの指揮による
NHK交響楽団1823回定期(2015年12月6日)を録画で観る。
演奏会形式をとることによって、
シュトラウスの<響き>、<音楽>がより明確に立ちあがる。
彩りにあふれ、官能や頽廃美というより、
緊迫感のある演奏。
あのデュトワの集中そして精力的な指揮。
とくに第4場の「7枚のヴェールの踊り」。
舞台だとサロメがどう踊るかに眼がいってしまうが、
艶やかな舞踊のシーンが演奏会形式ということで、
音がこれほど香気をもって表現されるのものか。
なんといっても歌い手が素晴らしい。
演奏会形式であっても、全員が暗譜。
もうこのままオペラの舞台にのせられるほど
声も演技も身体に入っている。
サロメは「サロメ」を持役にしているグン・ブリット・バークミン。
ボブスタイルの黒髪、高い鼻梁、紅い唇、風貌もサロメのイメージ。
強靭なドラマティック・ソプラノの声。その演技。
そこにくっきりとしたドラマを構築してゆく。
第3場のエギルス・シリンスのヨカナーンと
サロメの対話というより、
<誘惑>という激論にオケも白熱してゆく。
キム・ベグリーのヘロデ王。
オペラではあまり目立たない(?)、
このオペラでは唯一「狂気」をもたない人物。
少女サロメに惚れていたり、俗物であって、
それゆえに「ヨカナーン」の聖性を信じている。
ヨカナーンの生首を求めたサロメに対し、
ヘロデはおののきや畏れをいだき、代わりの物をいろいろ示す。
ヨカナーンの首と戯れているサロメをみて、
最後の台詞「あの女を殺せ」をこれほど納得できたことはない。
「サロメ」ビアズレー挿画
ヘロディアスのジェーン・ヘンシェルの強烈な存在感。
サロメ「ああ!なぜ私を見なかったの、ヨカナーン?
お前は目に、自分の神を見ようとする者の目かくしをした。
いいわ!お前は自分の神を見た、ヨカナーン、
でも、この私をいちども見なかったのね。
もし私を見ていたら、私を愛したはずよ!
私はお前の美しさに渇れている。
お前のからだに飢えている。
酒もりんごも、私の欲情をしずめることはできないわ。
私はどうしたらいいの、ヨカナーン?
高潮も、津波も、この欲望の火を消せない(内垣啓一訳)」。
「サロメ」ビアズレー挿画
◆サロメ:グン・ブリット・バークミン
ヨカナーン:エギルス・シリンス
ヘロデ:キム・ベグリー
ヘロディアス:ジェーン・ヘンシェル
指揮:シャルル・デュトワ
管弦楽:NHK交響楽団
◆ http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=465
(歌手の名前をクリックすると詳しいプロフィール)