野田秀樹×井上道義
「フィガロの結婚 -庭師は見た!」
を録画で観た。
この公演、チケットが完売で、
観劇がかなわなかったので、BSでの放映はうれしい。
指揮は井上道義、
オーケストラは読売交響楽団。
「フィガロの結婚」を黒船襲来時代の日本に置き換えた演出、
まさに意欲的というか、冒険的。
黒船に乗ってやってきた
アルマヴィーヴァ伯爵(ナターレ・デ・カロリス)と
伯爵夫人(テオドラ・ゲオルギュー)は、特権階級。
お小姓のケルビーノ。
この異国の3人はイタリア語で歌う。
この西洋人に対して、スザンナやフィガロはイタリア語で、
日本人同士は日本語で歌う。
この日本語訳も野田が手がけ、
お得意の言葉遊びもとびかう、じつにこなれた日本語。
伯爵は日本人に対して、
高圧的に領地の娘の初夜権を要求する。
「支配者と被支配者」、
「西洋と東洋」の構造を
くっきりとうかびあがらせる。
そのなかでの合唱もアンサンブル・ダンサーも、
生き生きとした庶民そのもの。
伯爵はその人びとから逆襲される。
伯爵夫人、ソプラノのテオドラ・ゲオルギューが
スリムな容姿で、アリア「かつて愛されたが、今は飽きられた」
女の哀切を歌う。
ケルビーはメゾソプラノでなく、
カウンターテナーのマルテン・エンゲルチェズ。
スザ女=スザンナの小林沙羅さん大奮闘。
なんてチャーミングなスザンナ。芝居も歌も素晴らしい。
こんなスザンナだと伯爵はもうたまらない。
フィガ郎、大山大輔は歌も演技も姿も魅せる。
バルバ里奈(バルバリーナ)はコロン・えりか。
このひとも可愛い。
マルチェリーナは森山京子。
バルト郎(ドン・バルトロ)をバスの妻屋秀和。
この二人の円熟した声とコミックな演技。
俳優である廣川三憲さんは、
物語を語る、庭師アントニ男を演じる。
みなが大団円になる重唱部分で、
伯爵夫人が伯爵に向かって銃を発砲するが、
この<怒り>が伯爵に届いたのだろうか。
「フィガロの結婚」は男女のじつに深刻な物語だと、
この演出は明確に差し出す。
モーツァルトは凄いとあらためて感じた。
◆ステージ写真(記事の中ごろより)
http://ebravo.jp/archives/18724
◆歌劇「フィガロの結婚」(全4幕) モーツァルト 作曲
<演 出>野田秀樹
<出 演>
フィガ郎(フィガロ): 大山大輔
スザ女(スザンナ): 小林沙羅
アルマヴィーヴァ伯爵: ナターレ・デ・カロリス
アルマヴィーヴァ伯爵夫人: テオドラ・ゲオルギュー
ケルビーノ: マルテン・エンゲルチェズ
マルチェ里奈(マルチェリーナ): 森山京子
バルト郎(ドン・バルトロ): 妻屋秀和
走り男(バジリオ): 牧川修一
狂っちゃ男(クルツィオ): 三浦大喜
バルバ里奈(バルバリーナ): コロン・えりか
庭師アントニ男(アントニオ): 廣川三憲
<声楽アンサンブル>
佐藤泰子、紺野恭子、西本会里、増田 弓
新後閑大介、平本英一、千葉裕一、東 玄彦
<演劇アンサンブル>
川原田樹、菊沢将憲、近藤彩香、佐々木富貴子
佐藤悠玄、長尾純子、永田恵実、野口卓磨
<チェンバロ>服部容子
<合 唱>新国立劇場合唱団
<管弦楽>読売日本交響楽団
<総監督・指揮>井上道義
収録: 2015年10月24日 東京芸術劇場 コンサートホール