『定本 青猫』外箱
「風船乗りの夢」は第二詩集『青猫』にある詩。
大正12年・1923年に刊行。
朔太郎36歳。
『定本 青猫』表紙
さらに十年後、
詩の入れ替えなどをして編集し、
それを『定本 青猫』とする。
『定本 青猫』扉
この「風船乗りの夢」は
『定本 青猫』に収められた詩。
風船乗りの夢
萩原朔太郎
夏草のしげる叢から
ふはりふはりと天上さして昇りゆく風船よ
籠には旧暦の暦をのせ
はるか地球の子午線を越えて吹かれ行かうよ。
ばうばうとした虚無の中を
雲はさびしげにながれて行き
草地も見えず 記憶の時計もぜんまいがとまつてしまつた。
どこをめあてに翔(か)けるのだらう
さうして酒瓶の底は虚しくなり
酔ひどれの見る美麗な幻覚も消えてしまつた。
しだいに下界の陸地をはなれ
愁ひや雲やに吹きながされて
知覚もおよばぬ真空圏内にまぎれ行かうよ。
この瓦斯(ガス)体(たい)もてふくらんだ気球のやうに
ふしぎにさびしい宇宙のはてを
友だちもなく ふはりふはりと昇つて行かうよ。
作曲は石渡日出夫。
スケールの大きな曲となっている。