十月は二世尾上松緑追善狂言。
昼の部では「矢の根」
「人情噺文七元結(にんじょうばなしぶんしちもっとい)」で、
ほかに「音羽嶽だんまり」、
「一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)」
「矢の根」、曽我五郎・松緑が大奮闘。
この演目、後見も大活躍。
大薩摩主膳太夫が年始の挨拶で持参した宝船の絵を、
枕の下に敷いて寝る。
このとき「うんとこどっこい、うんとこな」と
両足を前に投げ出し、尻から落ちる
「背ギバ」の豪快なこと。
曽我十郎は坂田藤十郎。
五郎の夢に登場、淡い色合いの衣装も似合い、
今月の出演はこれ一本で、出演時間は一分ほど。
なんとも贅沢。
「一條大蔵譚」
仁左衛門の大蔵卿、これがなんとも絶妙な味わい。
つくり阿呆、呆けたと見せかけているその阿呆が
したたるような愛嬌。
ぶっかえり後の凛々しい美貌の輝かしいこと。
花道から菊之助の鬼次郎を中啓越しに見やる表情、
それでいて、どこか悲哀の滲む大蔵卿・・・
見惚れてしまった。
「文七元結」
菊五郎の左官長兵衛がまさにニン。
博打で身ぐるみ剥がれて、
寒そうに「暗れえなぁ」とひとこと言うだけで、
世話物の世界へ。
そこに時蔵の女房お兼が絡む。
二人の夫婦喧嘩がみもの。
玉三郎の角海老女将、
ひとこと一言がしみじみと
からみつくようで、客席がシーンとなって。
なにが異界へゆくような。
文七の梅枝、
松緑の鳶頭。
昼の部も歌舞伎を堪能。
<二世尾上松緑二十七回忌追善狂言 >

◆歌舞伎十八番の内 矢の根(やのね)
曽我五郎 松 緑
大薩摩主膳太夫 彦三郎
馬士畑右衛門 権十郎
曽我十郎 藤十郎
◆一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
檜垣茶屋の場
大蔵館奥殿の場
一條大蔵長成 仁左衛門
お京 孝太郎
鳴瀬 家 橘
八剣勘解由 松之助
吉岡鬼次郎 菊之助
常盤御前 時 蔵
二世尾上松緑二十七回忌追善狂言
◆人情噺文七元結(にんじょうばなしぶんしちもっとい)
左官長兵衛 菊五郎
女房お兼 時 蔵
鳶頭伊兵衛 松 緑
和泉屋手代文七 梅 枝
娘お久 尾上右近
角海老手代藤助 團 蔵
和泉屋清兵衛 左團次
角海老女将お駒 玉三郎