市振の関にいたった芭蕉、
隣室からの声が聞え、
それは「伊勢参宮する」という遊女であった。
一家に遊女も寝たり萩と月 芭蕉
(ひとつや)
<私と同じ旅宿に、今宵は薄幸の遊女も隣り合わせた。
その夜の前庭の萩と月明かりとは、まことに、
そうした夜にふさわしい風物であった>
定めなき日を送る浮き草の身の遊女と
行脚漂泊(あんぎゃひょうはく)の自分との、
一見無縁のようで相似た境遇と観じての吟。
「萩と月」には、お互いをそれによそえる心も含める。
『曾良(そら)随行日記』に記載なし。
類似の体験はあったろうが、
物語的なこの項は虚構の脚色で、
連句的構成の寄航中の恋の場とみるべきもの。
新潮日本古典集成「芭蕉文集」より
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< 萩・萩の花・山萩・白萩・宮城野萩・糸萩・小萩・野萩・萩原
乱れ萩・こぼれ萩・萩垂る・萩散る・萩嵐・萩見・萩の宿・萩刈る>
マメ科の低木、ヤマハギなどの総称。
秋の七草のひとつ。
山野に自生するが、庭園に植栽し、
たわんだ枝に多数の小花が開く風情を楽しむ。
「山萩」とは萩の一種のヤマハギのことをいい、
また山にあるハギのこともいう。
秋の季語。
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<月・初月(はつづき)・三日月・新月・弦月・弓張月・半月
昼の月夕月・宵月・遅月・有明月・月白・月の出・月の入り
月夜・夕月夜・朝月夜(あさづきよ・あさづくよ)・
夜夜(よよ)の月・月明・月明かり・月光・月の秋>
秋は気候もよく大気も澄んで、
月がいちばん美しい。
日本の自然美を代表する[雪月花」のひとつ。
月白(つきしろ)は月が出ようとして空が白むこと。
有明月は夜が明けても空に残る月。
秋の季語。