芭蕉、いよいよ象潟におもむくと、
期待でこころ、せかれて。
当時は松島とならび称される景勝の地。
多島湾であったが、文化元年の地震で地盤が隆起して、
陸なった。
「松島は笑ふがごとく、
象潟は憾(うら)むがごとし」。
その象潟の句。
象潟や雨に西施が合歓の花 芭蕉
(せいし) (ねぶ)
<なんと魅惑的な象潟の情趣であることよ。
それはさながら、雨に濡れて咲いている合歓の花のように、
憂愁をたたえてまぶたを閉じている西施の風情である>
象潟の美景を西施にたとえ、
「西施が眠り」に[合歓」(葉を閉じる)を
言いかけて比喩を重層させた。
象潟の土地の形態は、
美女の西施が憂愁に閉ざされている
かのような風情である。
蘇東坡が西湖の美景を西施の美貌に
たとえたのに倣う。
新潮日本古典集成「芭蕉文集」より
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<合歓の花・ねぶの花・花合歓・合歓咲く>
マメ科の落葉高木。
山野に自生している。
7月頃、開花する。
紅色の多数の雄しべが美しく、
涼しそうな羽状複葉とよく釣り合う。
葉は夕方閉じ、花は夕方開く。
夏の季語。