月山をくだり湯殿山(ゆどのやま)へ。
湯殿山は行者の法式(ほっしき)として、
他言することを禁じている。
語られぬ湯殿にぬらす袂かな 芭蕉
(たもと)
<語ることを許されぬこの湯殿山の尊厳に打たれて、
私はただ感涙で袂をぬらすばかりである>
湯殿山の尊厳を賛美して挨拶のこころも託する。
[湯殿」に「ぬらす」は縁語。
「ぬらす袂」は涙をこぼす意で、
多くの恋の涙に言うのを転用した。
且つ、湯殿山を恋野山とする本意(ご進退は湯の
湧き出る女陰形の巨岩)により、
感涙に御手付きの濡れ場を匂わせた趣向。
新潮日本古典集成[芭蕉文集」