長谷川郁夫『知命と成熟』 | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

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第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。




長谷川郁夫『知命と成熟』 白水社 13年11月23日刊

『藝文往来』につづく随想集。
編集者、としてかかわった詩人、小説家、批評家ら
13人を没年順に並べる。

まさに思いの籠もったレクイエム。

なかでも吉田健一、堀口大學、
だれよりも小川国夫に著者の思いが深く滲む。

ひとりひとりへのレクイエムであるとともに
<文藝>へのレクイエムでもある。
「かれらが信じ、憧れ目標とした言葉の世界が
すでに喪われている」と。


<本の紹介> データベースより

知的出版で知られた元書肆が、
吉田健一や小川国夫など、
生前親交の深かった作家・評論家13人の文学的偉業と
蠱惑的営みを万感の思いを込めて綴った、
もうひとつの「偏愛的作家論」。

伝説の出版社として知られる元小沢書店の店主で、
現代文学を中心に鋭い論陣を張る著者が、
これまでに出会った多くの作家や詩人などのうち、
とくに強い絆で結ばれた13人の文学的偉業や
人間的魅力に論及しながら、
限りないオマージュを捧げた「硬派で温かい」文芸評論集。

登場するのは、吉田健一、河上徹太郎、堀口大學、小沼丹、
田村隆一、大原富枝、野々上慶一、水上勉、川村二郎、
前登志夫、小川国夫、寺田博、三浦哲郎。

そのなかでたとえば吉田健一。
『三文紳士』での文学的出会いから、
彼が「じつに礼儀正しい大酒飲みであること」
「文学的経歴がこれまでの文士とはまったく違っていて、
素養も食欲も桁外れの人物であること」などを知り、
自身の「吉田健一伝説」を形成したことなどを告白する。
もちろん福原麟太郎がいう「嘘をつく技術がうまい」という
指摘を付け加えるのも忘れていない。

小川国夫との交遊も、
親しくなければ知ることのできない数々が記されている。
亡くなる前日の午後、入院中の作家を見舞った著者に、
いきなり「顔を合わすなり、さあイクちゃん、
飲みに行こう、起こしてくれと命じた」という
いかにも作家らしいエピソードも紹介されている。

真摯な文芸評論であると同時に、
副題の「レクイエム」がいかにもふさわしい一冊だろう。


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[目次]

吉田健一 1921-1977(8.3)
落日に寄せる頌歌 吉田健一抄・序
ネッシーの骨格
黄金色の時間のなかへ
言葉、という思想

河上徹太郎 1902-1980(9.22)
雅なる宴に 私の河上徹太郎案内
盆暮会余聞

堀口大學 1892-1981(3.15)
「堀口大學」という詩語
「堀口大學」との七年
堀口大學と百選会

小沼丹 1918-1996(11.8)
詩人扼殺 小沼丹の初期作品
薔薇と青空

田村隆一 1923-1998(8.26)
文明論の詩人 評伝風のエスキス

大原富枝 1912-2000(1.27)
愛の暴虐、愛の浄化

野々上慶一 1909-2004(8.2)
「高級な友情」ということ
男泣きする「さむらい」たち

水上勉 1919-2004(9.8)
漂泊のにおい

川村二郎 1928-2008(2.7)
最後の学匠詩人

前登志夫 1926-2008(4.5)
前登志夫への接近 「存在の秋」まで
紺色の思い出
眠れる翁に

小川国夫 1927-2008(4.8)
その最期の日々を想う
思い出すままに オガワ虫追悼の記
小川国夫と島尾敏雄
小川国夫と聖書
小川国夫の晩年 「弱い神」を巡って
どこまでも明晰な狂気 小川国夫の超私小説
小川国夫のヘミングウェイ時代

寺田博 1933-2010(3.5)
朝が来るまで歌いづづけよ! 寺田博一周忌に

三浦哲郎 1931-2010(8.29)
酒、旅、将棋、そして酒 三浦哲郎『師・井伏鱒二の思い出』

あとがき



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長谷川 郁夫(はせがわ いくお、1947年 - )
大阪芸術大学教授、元小澤書店社長、文芸編集者、評論家。

神奈川県生まれ。
早稲田大学文学部在学中に小澤書店を創立、
2000年まで約六百数十点の文芸書の編集・制作に携わった。

2006年刊の『美酒と革嚢-第一書房・長谷川巳之吉』で
芸術選奨文部科学大臣賞、やまなし文学賞受賞。
2007年大阪芸術大学教授、文学部文芸学科長。

著書
『われ発見せり 書肆ユリイカ・伊達得夫』書肆山田 1992
『美酒と革嚢 第一書房・長谷川巳之吉』河出書房新社 2006
『藝文往来』平凡社 2007-作家たちとの交流・回想記
『本の背表紙』河出書房新社 2007
『堀口大學 詩は一生の長い道』河出書房新社
 2009 『三田文學』に長期間連載した。
 回想を交え、終戦までの前半生を描く。

『知命と成熟 13のレクイエム』白水社、
 2013.11 深い交流があった作家・評論家13名の「偏愛的作家論」。