日本歌曲の第一人者、
塚田佳男先生の公開レッスンが行われた。
塚田先生、
この日の午後ご自分のコンサートで
演奏され、その足でレッスンに臨まれた(!?)
この日は<高津圭>としての活動。
高津圭は塚田佳男の別名。
<うた>での演奏の時はこの名前。
じつは芸大の学生のころは「声楽科」、
さらに二期会の研究生にすすまれたのだが、
ピアノへのおもい止みがたく、
次の週には二期会でピアニストになっていた!?
で、その後の活動はうたのピアニストとして、
カーネギー・ホールでのコンサートで
あの辛口のニューヨーク・タイムズに
「完成されきったピアニスト・芸術家」と。
あの安田姉妹の童謡のコンサート企画・ピアニストを
長くされていた。
還暦ころから、
<うた>われるようになって、
CDも数枚だされている。
レッスンに伺って、
そのCDを頂戴したのだが、
「聴かなくてもいいから」、と。
今回は委嘱作品の一番新しい(昨年のクリスマス)、
句 松尾芭蕉、曲 野澤美香
「むざんやな甲の下のきりぎりす」、
と「木兎(みみずく)」。
「むざんやな」をさきにもってきたのは、
音の構成、和音、変拍子など、
歌うのに使う頭のありようがあまりに異なるので、
この曲から。
いままでの傾向から新たな境地になって、
「俳句」がみえてくる、よう。
「木兎」詩 三好達治、曲 中田喜直。
若いころから、とても好きな曲。
どちらかというと「男声」の曲なのだが。
「十年の月日がたった、
その間にわたしはなにをしてきたか、
・・・・
わたしのしてきたことといえば、
一つ一つ希望を失った、
ただそれだけ
・・・」
じつにきめ細かく、
さらにかっちりとした構成に!
充実したレッスンを受けた。
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木兎(みみづく)
三好達治
木兎が鳴いてゐる
ああまた木兎が鳴いてゐる
古い歌
聴きなれた昔の歌
お前の歌を聴くために
私は都にかへつてきたのか・・・
さうだ
私はいま私の心にさう答へる
十年の月日がたつた
その間に 私は何をしてきたか
私のしてきたことといへば
さて何だろう・・・
一つ一つ 私は希望をうしなつた
ただそれだけ
木兎が鳴いてゐる
ああまた木兎が鳴いている
昔の聲で
昔の歌を歌つてゐる
それでは私もお前の眞似をするとしよう
すこしばかり歳をとつた この木兎もさ
「定本 三好達治全詩集」 筑摩書房版より