10月5日(金)
オペラ「ピーター・グライムズ」
ベンジャミン・ブリテン作曲を観た。
素晴らしい舞台!!
これに尽きる。
ピーターを歌ったテノール、
スケルトンの輝くような<声>、
まさに現代を代表するヘンデルテナー。
ピュアーなものがありながら、無骨で、
ともすると粗暴で、少年虐待の嫌疑をうけたまま、
村人のなかから孤立してしまう。
一幕のクラリネットが繰り返しの音形のもと
さらに心理状態のゆらぎがくっきりと立ち上がる。
三幕、なんとオーケストラが一音も発せず、
影コーラスがあるだけで、
延々とピーターが歌う!?
こんなのありか、というブリテンの書法。
これに拮抗・対峙するエレン役の
グリットン(リリック・ソプラノ)。
ピーターに思いを寄せながらも
どこか信じきれないような。
このふたりのみならず、
各役このひとの他は考えられないといえるほどの充実。
日本人歌手たちのなかでも嫌味なセドリー夫人(加納悦子)、
姪(?)の鵜木絵里・平井香織がいい。
ピーターをその自覚もなく追いつめてゆく、村人達。
合唱が圧倒的な存在を示す。
少年(おびえながら、死んでゆく)も忘れがたい。
アームストロングの指揮による
東フィル、劇的な緊張・集中が満ち満ちて。
デッカー演出はくっきりとこの暗い、
人間の心理・存在の内奥に潜むものまでを
視覚化し、人間のドラマとなり、
マクファーレンの美術がそれを具体化し、顕彰する。
荒涼とした海の情景、
曇天の寒々とした照明、
ステージを奥行きを深くし、奥に海。
かなりの傾斜した舞台(通称八百屋)。
衣装も白黒、そこに赤。
酒場の壁、少年のセーター、
村人のダンスのときのドレス。
血が滴り落ちたよう、どきっとする。
シーズンの最初にこのオペラを
上演した尾高忠明にブラーボ!
フォイエにはブリテン関連の資料や写真を展示。
10月14日、最終日。

【物語】
イギリス東部の漁村。
徒弟の死亡事件について漁師ピーター・グライムズの裁判が行われている。
判定は事故死となるが、村人は疑惑の念を持つ。
女教師エレンだけは彼の味方をし、
新しい徒弟の少年をグライムズの元に連れてくる。
やがて、エレンは少年に傷があることに気づきグライムズを問いただすが、
グライムズは彼女を殴ってしまう。

これを聞いた村人がグライムズの小屋に押し寄せたため、
グライムズは少年に海へ崖を降りるように命令、
少年は足を滑らせ死ぬ。
数日後、少年のセーターが岸に流れ着く。
グライムズが人殺しだという噂が広まり村人が捜索する中、
バルストロード船長が正気を失ったグライムズに
沖に出て船を沈め自殺するよう勧める。
翌朝、沈没船の知らせが村に届くが、人々は関心を持たない。

【配役】
ピーター・グライムズ:スチュアート・スケルトン

エレン・オーフォード:スーザン・グリットン
バルストロード船長:ジョナサン・サマーズ
アーンティ:キャサリン・ウィン=ロジャース
姪1:鵜木絵里/姪2:平井香織
ボブ・ボウルズ:糸賀修平
スワロー:久保和範
セドリー夫人:加納悦子
ホレース・アダムス:望月哲也
ネッド・キーン:吉川健一
ホブソン:大澤 建
【演出】

ウィリー・デッカー
【美術・衣装】
ジョン・マクファーレン

【演奏】
リチャード・アームストロング指揮
東京フィルハーモニー交響楽団
新国立劇場合唱団
