声(2)
“声”といえば忘れられない出来事がある。早稲田大学に入学して間もない5月下旬のこと。東京六大学春季リーグは終盤にさしかかり、最終カードの早慶戦が近づいていた。その早慶戦のすぐあとには新人戦が控えている。新人戦とは六大学の1・2年生チームで行われるトーナメント戦のことだ。当然僕は新人戦への出場を望んでいたが、入部当初から捻挫や急性腸炎などで満足に練習ができず、監督の目に留まるどころか、4年生の新人監督にすら相手にされていなかった。そんな状況で新人戦まであと一週間程というある日。一軍練習の手伝いでベンチ横に立っていた僕はいつになく大きな声を張り上げていた。実際にプレーすることもできず、ただ立っているしかない状況で、早慶戦を控えたチームに迷惑をかけずに自分をアピールする方法はこれしかなかったからだ。この“声”=“執念”はすぐ監督に伝わったようで、新人監督を通じて「これから一週間、ティー打撃を毎日千本」の指令を受けた。新人戦ベンチ入り確定だ。実際の試合(初戦で負けたので1試合のみ)ではレフトを守りフル出場。ドン詰まりだったがヒットも打った。しかし、この数日後、あの忌まわしい出来事が起こることになる。そして、僕が早大のユニホームでプレーしたのはこれが最初で最後となってしまった。