「バサラの女王蜷川実花」と 「松井珠理奈とアンリ・ベルクソン」で、AKB48のプロモーションビデオの中でベルクソン哲学の映像化が行われていることを書きました。今回は、同じくAKB48の歌の中でマルティン・ハイデガー博士の哲学が具現化された例について書きましょう。
それは大島優子さん最後の参加作となった「前しか向かねえ」です。この曲の歌詞の内容は、ハイデガー博士最大の名著「存在と時間」の内容そのものなのです。
まずタイトルであり出だしでもある「前しか向かねえ」です。ハイデガーは「存在と時間」の中で、時間はひたすらまっすぐに未来に向かって突進していくことを強調しています。だから「歩いた道振り向いたって風が吹いているだけ」であり、「横を向」くことさえ避けたいのであり常に「遠くを睨んで」いる必要があるのです。もちろん「人生にとって大事なことは未来にあると俺たちは知った」というのも同じことです。
またハイデガーは、その未来を得るために一番大事なことは、人間が死を意識して覚悟を決めることだと言っています。それがつまり「最後くらいはカッコつけさせてくれ」なのです。この語感が似ている「カッコ」を「覚悟」と読み解くとピッタリはまります。カッコも覚悟も元は禅用語でルーツは同じです。「奥歯噛み締め」もそこにつながります。
以上の引用部分が最大のキーワードですが、その他全体として見ても「存在と時間」と無関係なフレーズは一つもありません。ハイデガーが何よりも強調したことは、存在はただ無自覚に存在するだけでは、真の存在にはなれないという事です。人間は、自らの存在を自覚して初めて現存在(ダーザイン)になれるのです。そのためには死を意識し、覚悟を決め、ひたすらまっすぐに未来に突進していかなければなりません。
「前しか向かねえ」の歌詞は、引用したキーワード以外も、全てこうしたハイデガーワールドの厳しさに満ちています。
そして振り付けの荒々しさです。スタンドマイクを振り回し、回転しながらジャンプする大島優子。そしてメンバー。あのジャンプの一つ一つが存在の自覚を踏みしめているのです。大島優子最後のシングルにこれを持ってきたのが秋元康さんのすごいところです。大島さんの真骨頂はその強さ、厳しさにあるからです。「前しか向かねえ」を繰り返し聴き、あるいは映像を観ることで、人は自らの存在を強烈に自覚します。この楽曲は世界の歴史の中でも全く特別なポジションを占めているのです。
時代はハイデガー哲学を求めています。岩波文庫は、最近急に「存在と時間」を全面リニューアルしました。従来の難解な訳の全三冊本を廃して、わかりやすい新訳の全四冊本を出したのです。これで今まで敬遠していた人も読めるでしょう。「存在と時間」を読んだ後で「前しか向かねえ」を聴けば、グッと迫るものがあると思います。
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太宰院マキ バサラエルボー代表 一児の母。長年エステ業界で苦労し、心を自然に開く技量を身に付ける。ふんわりしているが一番強い。
芥川ケン バサラエルボー委託講師。情熱のカウンセラー。全ての人間の長所を引き出す名人。アイドル文化の守護神。
夏目魔弓 バサラエルボー幹事 さすらいの歯科医。イギリスをこよなく愛し、陶芸の達人でもある。鋭い文明批評で怖れられる論客。