IBMの近年の成果、社会貢献についてまとめてみたいと思います。
1. 半導体チップ
米IBMは数十年にわたり、半導体チップの研究で技術革新を重ねています。
今年、回路線幅が7ナノメートルのチップを初めて開発することに成功しました。
7ナノメートルは、人間の毛髪の1400分の1という小ささ。
このチップの開発でインテルのゴードン・ムーア名誉会長が1965年に予測した、半導体の集積度は2年で倍増するという『ムーアの法則』に基づいて、業界の進歩が少なくともさらに1世代続くことになる。
このチップが市場に普及すれば、処理速度が増したコンピューターから、よりスマートな 「IoT」機器、インターネットにつながったスマートな日用品に至るまで、処理速度がさらに上がり、価格が安く、性能の優れた電子製品が市場に出回るようになります。
このチップでは、新たな半導体の製造プロセスと技術を活用。
シリコン・ゲルマニウム(SiGe)やチャネルトランジスタ、極端紫外線
(EUV)リソグラフィーの様々な水準での統合などこれまでの技術革新をフル活用しました。
こうした革新により、IBMは現在利用できる最高の技術である10
ナノメートルに比べ、チップの大きさを50%削減することに成功しました。
なお、今回IBMが製造した初のチップは試作品。
現時点で最高のチップは 22ナノメートルや14ナノメートルの技術を使っており、次に到来するのは10ナノメートルの製造技術で、7ナノメートルはその後になります。
2. ネット家電
モノのインターネット化は、日米独が技術革新を競い、工場の稼働を集中管理する目的などで導入が見込まれています。
橋や水道といったインフラを遠隔監視したり、鉱山で生産設備の稼働を分析したりするサービスも普及し始めました。
このように、あらゆるものをネットにつなげる技術は工場やインフラを効率管理する用途で先行してきたが、今後は一般消費者が日常生活で利用する製品にも普及しそうです。
今年、日本IBMはインターネットにつながる家電の開発支援サービスを始めました。
中堅メーカーの利用を想定し、ネット接続で便利な機能を持つ扇風機や美容 家電、健康器具といった製品の開発を支援しています。
具体的には扇風機を温度や湿度に合わせて制御し、エアコンと連動して風量を調節するような使い方が可能となります。
部品の消耗を検知し交換を促すことで製品寿命を延ばすこともできます。
美容家電では、内蔵したセンサーで肌の状態を分析し、利用者に合う化粧品情報を提供するといったことも想定されています。
洗濯機なら洗剤の投入量を 検知して、適切なタイミングで利用者のスマホに洗剤購入を促すなど小売事業との連携も可能になります
製品の開発・販売後は、ネットを介して家電から情報を集めるほか、ビッグデータ分析などのITサービスを提供し、データ管理まで請け負います。
データはIBMグループが日米欧など約20カ所に展開するデータセンターで管理し、サイバー攻撃対策などの情報セキュリティー対応も引き受けます。
こうして、家電メーカーはセンサーから集めた膨大なデータを管理するデータセンターや管理システムなどを自社で持たずに済むようになります。
今後広がると予想されている、クルマが常時ネット接続するコネクテッドカーなどIoTに対応した製品。
これらの開発には技術力にかかる資金を、日本IBMのサービスを活用すると、自前で臨むよりも研究開発費や製品化までの期間を半分以下に減らせる見込みになっており、中堅メーカー には負担が大きく軽減されます。
3. 災害対策システム
日本IBMは全国の地方自治体向けに災害情報を一元管理できるシステムの構築・運用事業を始めました。
地震や火山の噴火など災害情報を一元管理しやすくなり、 スマートフォンを使い住民に素早く的確に避難指示ができます。
価格は人口30万人程度の自治体で4000万円程度で、今年埼玉県越谷市 から受注しました。
消防庁の全国瞬時警報システム(Jアラート)から送られる津波や洪水、火山噴火などの緊急情報のほか、災害現場や避難所の状況や職員の安否確認などの様々 な情報を集約してパソコン画面上に地図データと重ね合わせて表示できるシステムを構築します。
自治体のウェブサイトや電子メール、交流サイト(SNS)を通じて住民に迅速に避難情報を伝える機能も用意する。避難情報の入力などはタブレット(多機能携帯端末)やスマホで簡単に操作でき、有事の際の操作ミスを防ぎやすくなります。
災害時は被害の全体増を迅速かつ正確に把握することが欠かせないが、自治体のシステムは情報収集と地図データ、緊急通報など機能別に分かれていることが多く、一元的な整備が遅れているという。
このシステムにより、自治体の災害対策本部が適切な指示を下し、迅速に対応しやすくなるでしょう。
4. ワトソン
米IBMは認知型コンピューター「ワトソン」で、人工知能の技術を活用。ワトソンは問いかけに対して最適とみられる答えを出す能力にたけており、日本でもがんの治療法の開発や銀行のコールセンターで顧客対応業務に利用されています。
Watsonは、大量のデータを分析したり、自然言語による複雑な質問を理解したりして根拠に基づいた回答を提示できます。過去の会話などから、知識を継続的に学習することも可能。
また、「ワトソン」は、文章から人の感情も判別することができます。
明るさは喜び、楽観、満足、感動、幸せなどプラスの感情を表します。マイナスの感情は不安、嫌悪、失望、罪悪感、拒絶、屈辱などを含み、怒りはいら立ち、敵意、攻撃、苦痛、不満、激怒など。そして、ワトソンは開放性、同調性、誠実さなど社会的な感情も理解できます。
こうした洞察は個人や仕事でのコミュニケーション、セルフブランディング、市場調査、広報マネジメント、問い合わせ先の自動音声応答システムの管理など多くの目的に使えます。
そして、日本IBMと東京大学医科学研究所は2015年7月30日、コグニティブコンピューティング技術「IBM Watson」の医療分野への応用として、「Watson Genomic Analytics」を活用したがん研究を開始すると発表しました。
北米では昨年から約20の医療機関などが米IBMが開発したワトソンを使って医療分野での研究を始めているが、北米以外の医療研究機関で「Watson Genomic Analytics」が利用されるのはこれが初めて。
がん細胞の全ゲノム(遺伝)情報は約60億文字分のデータに相当します。
遺伝子解析技術の進歩により、これら全ゲノム情報を読み取れるようになってきましたが、これに加えて、インターネット上には、がん細胞のゲノムに存在する遺伝子変異に関連する研究論文、臨床試験などの膨大な情報があります。しかし「ワトソン」はこうした情報を迅速に参照して分析できます。
がん関連の論文は1年間に世界中で20万本ほどが新たに発表されるとされ、医師がすべてに目を通すのは不可能に近いです。
ところが、「ワトソン」なら読み込むだけでなく「機械学習」の技術により人間が成長するかのように提案の精度を高められます。
「Watson Genomic Analytics」は、全ゲノム・シークエンシングから得られたデータや研究論文、臨床試験などの情報から、がんの原因となる遺伝子変異を見つけ出すと共に、有効と思われる治療法を提示します。
東大が持つ日本人患者のデータなどを集め人工知能で分析し、遺伝子情報をもとに個別の患者に適した治療方針を、最短10分程度で導き出せるそうです。(人手ならば数週間かかる作業)
日本で研究成果を上げればアジア人へのがん治療にも応用が期待できそうだ。
世界保健機関(WHO)の推計によると、2012年に新たに約1400万人ががんと診断され、そのうち半分近くがアジアそうです。
欧米ではがんによる死者が減少傾向にあるが、アジアなど他地域では増えています。