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IT幸福論 岩本 敏男
「農業革命」「産業革命」を経た現在、世界では第3の革命が起きています。それは…
「情報通信革命」
この革命により、それまで人々が当然と考えていた制度や価値が根本的に覆されることになります。
この本では、NTTデータ代表取締役社長である岩本さんが、情報通信技術の最先端やIT革命が進んだ先の未来社会について、わかりやすく解説をしています。
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<経歴>
76年東京大学工学部卒業後、日本電信電話公社入社。
中央省庁システム、日本銀行など、社会インフラとなるビックプロジェクトを手掛け、日本のIT高度化に大きく貢献。
2012年6月より代表取締役社長に就任します。
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1. ITの力が社会を変える
『情報』の価値は、不確実性を減らすと共に、利用して得られる利益を極大化する点にあります。
皇 帝ナポレオンが政権復位からわずか95日間(「百日天下」)で再び失脚することになったことで有名な「ワーテルローの戦い」において、ロスチャイルドは誰 より早く「フランスが敗れる」という情報を入手し、英国国債を大量に買い占めることで、当時の通過で約100ポンドという利益を得ました。
情報を扱うことが、いかに重要なことであるかは、現代における例を見てもよく解ります。
○SNSによって、急速に人と人とのつながりが拡大しました。
○ATMや決済システム、ネットバンキング等によって、買い物の支払いや預金の入出金などお金のやりとりの方法が多様化しました。
○「リアルタイム・データ」によって、バレーボールやサッカー等の戦術の形が変わりつつあります。
2. 革命をもたらす技術は進化を続ける
情報通信革命の原動力ともいえる『3大要素技術』について
☆情報を処理する「CPU」
「CPU」の役割は、コンピュータを機能させるための情報処理や数値計算、各装置の制御です。
(CPUのクロック周波数が「3.4GHz」とすると「1秒間に34億回、動作することができる」ということになります。)
「半導体の集積密度は、18~24ヶ月で倍増する」というムーアの法則の通り、順調に進化を遂げたCPUは『素子の微細化の限界』という壁に当たっています。
CPUの電子回路内の配線の幅は、既に10nmのオーダーに達しており、原始1個の大きさ約0.1nmにかなり近づいています。
また、消費電力が熱エネルギーに変わり、発熱することで、CPUの動作が不安定になったり、突然停止する可能性があります。
そこで、現在は「コア数を増やす」方向に進んでいます。
シングルコアより低いクロック周波数で動作させ、シングルコアと同等の性能を保ちながら、消費電力を下げることもできます。
同じコアを複数搭載する『マルチコア』だけでなく、異なる特性を持つコアを複数搭載する『ヘテロジニアスマルチコア』も開発され、一層の性能向上と消費電力削減を図っています。
また「トランジスタを立体化」し、より低い電圧でスイッチングを行えるものが開発されています。電圧が低いため、動作が高速になり、かつ消費電力を抑えられるという利点があります。
「量子コンピュータ」という次世代のCPUもあります。n量子ビットのコンピュータは、素子や発熱の問題に依存せず、従来のコンピュータとはまったく異なる次元の性能を実現できます。
☆情報を記憶する「ストレージ」
コンピュータが情報を記憶する装置には「主記憶装置=メインメモリ」と「補助記憶装置=ストレージ」があります。
メインメモリ : CPUが直接アクセス 高速 容量小 高価 揮発性(通電していないと記憶が消えてしまう)
ストレージ : 低速 容量大 安価 不揮発性(記憶保持に通電が不要)
ストレージの具体例として、CD・DVD・USBメモリなどがあるが、その中でもハードディスク向上は著しく、現在では記憶容量4TBに達しています。
ハードディスクの原理としては、ディスクの面に沿って磁界をかけることで、データの読み書きをします。
ところが、記憶容量を向上させるためには、なるべく狭い範囲で磁気情報を書き込む必要があるため、磁気ヘッドと磁気ディスクを短くして近づける必要があります。
現在のディスクとヘッドの距離は10nmであり、これ以上短くするには、物理的な限界があります。
そこで新たな方式のストレージとして「SSD」が誕生しました。
データを記憶するのにディスクではなく、フラッシュメモリという記憶媒体を使います。
フラッシュメモリは、不揮発性の記憶媒体で、かつディスクを持たないため、ハードディスクのような構造的な課題はない上に、回転待ちが不要なので高速の読み書きを行うことが可能です。
しかし、SSDにも技術的な問題はあります。
SSDの中のフラッシュメモリには、データを担う電子を閉じ込める絶縁体という膜があり、メモリに電圧をかけることで、電子を膜から出し入れしてデータの保存・消去を行います。が、何度も保存・消去を繰り返すと、絶縁体が脆くなってきて、寿命が近づきます。
そこで現在は、磁性体の性質を利用した「磁気抵抗メモリ=M-RAM」や電圧を加えると電気抵抗が変わることを利用した「抵抗変化型メモリ=Re-RAM」などが考えられています。
これらの新しい記憶素子は、書き換えが事実上無制限で、動作速度も主電源に近いです。
さらに開発が進み、主記憶装置も不揮発化されていけば、真に動作すべき構成要素以外の電源をオフの状態にできる『ノーマリーオフ』のパソコンの実現に近づいていきます。
☆情報を伝達する「ネットワーク」
ネットワークは、自分が情報を発信する、あるいは自分が情報を得るというときに、重要な役割を果たします。
当初は、電話とモデムを使っていましたが、ADSLやFTTHが登場してネットワークは飛躍的に進歩しました。
ADSLはアクセス回線として従来の電話回線を利用するが、通話で使わない周波数を使ってデータ通信を行います。しかし、周波数帯に限りがあり、周波数が高くなるほど、距離による減衰が激しくなります。
一方で光ファイバーを用いたFTTHは、周波数帯域が広くかつ信号の減衰が小さいため、高速かつ長距離の通信が可能です。
当初は初期費用・月額費用が高額だったため利用者数は大きく伸びなかったが、低価格化が進み、FTTHの普及が進んでいます。FTTHの通信速度は100Mbps(bps=1秒あたり何ビット送れるか)が主流で、200Mbpsや1Gbpsのサービスも提供されています。
さらなる高速化の研究が進み、NTTグループが「マルチコア光ファイバー」を使って、毎秒1PB(=2時間のハイビジョン映画5000本を1秒間で伝送できる)の超大容量データを伝送する実験を成功させました。
一方で、携帯電話をはじめとするモバイルデータ通信の進化についても、
「変調方式(=変調をして最大64種類の情報を識別)」
「複数アンテナ(=複数のアンテナを同時に用いる)」
「周波数帯域の効率的利用(=周波数と時間で区別)」
現在112.5Mbpsに達しており、FTTHと比べても遜色ありません。
3大要素技術の進化の先にあるものとして、3つの事柄があります。
★「クラウドコンピューティング」
「クラウドコンピューティング」は、雲で表現されるネットワークを経由して、その先にあるコンピュータリソースを利用します。
クラウドを使えば、我々は手元にデータを保管しておく必要はなくなり、必要なのは、映像を見るための画面とキーボードとインターネットとつながるための回線だけ。
これらを支える技術のひとつに『仮想化』があります。
仮想化とは、物理的には一つのリソースを論理的に複数に見せたり、物理的には複数のリソースを論理的に一つに見せたりする技術です。
仮想化によって、処理能力が高いリソースを必要に応じて分割したり、処理能力が低いリソースをたくさん集めて高い処理能力を引き出したりすることが可能になります。
こうしてクラウドは、利用者側から見れば「必要な時に必要な分だけリソースを利用できる」し、提供者側にとっては「求められる時に求められるだけリソースを提供できる」ことができます。
また、複数のコンピュータが連携しタスクを並列実行する分散処理方式も可能です。
もしも、将来PC内部の速度よりネットワークが速くなったら、CPUやストレージ等の装置をPCの中に格納する必要がなくなります。
★「スマートフォン」
スマートフォンは、掌に入るPCのように様々な機能が詰っています。さらに、PCにはないGPSモジュール・電子コンパス・加速度センサー(=これらを「センシングデバイス」と言う)がスマートフォンには入ってます。
こうしたスマートフォンの機能を利用して、タクシー配車サービスの新形態が生まれました。
また「タッチパネル」によってマウスにはなかった直感的な操作を可能にしました。
今後は「ブレイン・マシン・インターフェース」という、脳に流れる微弱な電気信号をコンピュータに伝える技術も発展するでしょう。
★「ビッグデータ」
ビッグデータは、ネットワーク・CPU・ストレージの向上により、2011年には1.8ZBまで大量かつ多様化したデータをリアルタイムに扱うことを意味しています。
特に、生活の中でとっている行動や選択などをデジタル化した「ライフログデータ」と大量に散在しているセンサーが出力する「センシングデータ」が注目されています。
3. 未来を予見する力が競争優位をもたらす
我々が社会の未来像として想像する情報社会トレンドは5つあります。
●「競争力の源泉は知識やノウハウの活用へシフトする」
企業は、膨大なデータの中から”意味”や”知恵”を見出して、それを知識やノウハウとして如何に上手に活用できるかが大事になります。
また今後はオープンガバメント化され、政府が膨大に持っている気象データ・人口統計データ・医療関連データなどの開示が進んでいくでしょう。
●「マス重視から個重視へ」
あるインターネットサイトで、顧客のログデータを長期にわたり解析することで、顧客が求める商品やサービスを割り出したり、患者一人ひとりに合わせたオー ダーメイド医療の遺伝子診断、人間の選択や行動をも検知するセンシング技術、3Dプリンタでカスタムメイドの靴を製作するなど、「多くの客の心を鷲掴みに する」よりも「個人の興味に合わせて、魅力的な商品を用意する」ことが重要になります。
●「環境やニーズ変化へのリアルタイムな対応が求められる」
電気量予測をもとに電気料を変動させる「ダイナミック・プライシング」のサービス導入が世界中で始まっており、電気があまり使われない夜間に電気料金を下げる、需要が発電量の限界に近づくと電気料金をあげるなどが可能になります。
またITにより災害時の被害状況の迅速な把握を支援し、平常時における異常の早期発見を目刺し、点検・補修の参考情報を収集するシステムがあります。
●「誰でも活用できるITが普及する」
従来は、ITがもたらす利益を直接的に受ける機会に格差が生じる「デジタルデバイド」ということもありましたが、音声操作や空間ディスプレイなど直感的に操作できる「ナチュラル・ユーザー・インターフェース」によって、無意識にITを使うような時代がやってくるでしょう。
●「情報社会トレンドの象徴としてのスマートグリッドとスマートシティ」
再生エネルギーを各家庭で本格的に使い、余剰電力を都市内で効率的に使う「スマートシティ」が今後のトレンドになるでしょう。
また、これを実現する為の基盤技術として「スマートグリッド」があります。
例えば、使用電気量を逐一表示し、最適化する「ホーム・エネルギー・マネジメント・システム」や医療拠点をネットワーク化、患者カルテを共有したきめの細かい医療サービス、交通渋滞緩和や課金システムの効率化をする高速道路や橋のセンサーサービス等です。
4. NTTデータでの5つの技術トレンド
*「個」を理解する人間指向のIT
ライフ・ワークログ分析、生体情報分析(心電図・血圧など)、ゲーミフィケーション、3Dプリンタ
*戦略的なデータ収集と分析
大規模リアルタイム分析基盤、非構造データ解析
*サイバー・フィジカル・コンピューティング
ロボティクス、AR(拡張現実)、画像による物体認識
*環境適応型の粘り強いITインフラ
広域データ分散、ネットワーク仮想化、クラウドセキュリティ
*デリバリー短縮を実現する超高速開発
開発自動化、デジタルプロトタイプ
5. ソフトウェア開発の生産技術革新
日本企業のITへの投資額は少なく、その背景として日本が「カスタムメイドソフト」に重きを置いてきたことがあります。カスタムメイドである為、コストと時間がかかり、攻めのIT投資へお金を割けなくなるという負の連鎖が起きてしまうのです。
かつて、日本はものづくりの現場で、企業間の競争を続けながら、より高い品質のものを、より高い生産性でつくることを実現した。この経験をソフトウェア開発にも活かさなければなりません。そこで考えられる方法は2つ…
(1) 徹底的な開発の自動化
NTTデータでは、「TERASOLUNA」というツールで、ソフトウェア開発における「要件定義、設計、製造、テスト」をすべて自動化することを試みています。
(2) 膨大なデジタル資産を活用する
年間1000件にも及ぶ新規のソフトウェア開発のプロジェクトにおいて蓄積されている設計書や製品を、デジタル化された状態で集約した「レポジトリ」として データベースを構築する。こうすることでカスタムメイドの開発をパッケージソフトを導入するのと同様の感覚で実現できます。
「私は、自らの幸福を望む心と他人の幸福を望む心がひとつになるとき、自分を含む世界全体の幸福が実現すると解釈している。将来の幸福を実現させる道具となるのもまた、人類が生み出すITなのである。」 ーー岩本敏男
この本は、知識の少ない自分にでも非常にわかりやすく解説されていました。
ITは、自分にとって最も興味深い分野で、勉強になることがあまりにも多いため、文章の分量も増えてしまいましたが、興味のある方だけ参考にしていただければ幸いです。今までで一番オススメの本です。是非読んでみてください。
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