11月10日(日)に行われた4歳牝馬限定重賞の第49回クインカップ(BG3)は、前々で運んだミュウ(牝4、長部)が第二障害を一腰で越えると、下りてからも力強い脚取りで抜け出し、重賞初制覇を遂げました。
鈴木恵介騎手は当レース5勝目で重賞通算100勝目。長部幸光調教師は当レース初勝利で、2015年7月のばんえい大賞典(シリウス)以来となる重賞通算4勝目。
馬場水分1.7%で勝ち時計は1分54秒5。障害を3番手で下ったゴールドクイーン(牝4、小林長)がしぶとく歩いて2着に続き、断然の人気を集めたスーパーチヨコ(牝4、長部)は3着。
個人的な馬券の話から始めると、ミュウは今回ノーマークでした。
あ、いや、文字通りマークカードの番号欄には塗らなかったという意味で、上位候補の一頭であるとはもちろん思っていましたが、単勝2番人気になる馬を「消し」と判断したのはたしかです。
終いは長く良い脚を使えるものの、ちょっとヒザが甘いだけに障害に気を使わざるを得ず、つまりは詰めて行けずに位置取りが後ろになり、どうしても遅れ差しの形になる、という印象が拭い切れませんでした。伸びてきて2着3着の可能性はそれなりに高いとは思いながらも、積極的に買い目に入れる気にはならないというか。
それが、第一障害を先頭で下ったままに自分で引っ張り流れを作り、第二障害にトップ付けせんかの積極策。この時点で驚きましたが、そこからヤマをしっかり上げ切り、かつ終い歩ける強みも活かして同厩の人気馬を競り落とし突き放しての完勝。間違いなく、これまでのキャリアの中で最高の競馬を、この大事な舞台でやってのけました。
戦前に「自力勝負が利かず単の魅力には欠ける」なんて書いた私は完全な見立て違いでしたが(自ら恥を晒すスタイル(^^;)、本馬の馬券を買っていた方であっても、このような勝ちっぷりは予想していなかったのではないでしょうか?
もちろん馬が素晴らしく、デキも相当に良かったのでしょうが、この位置取りと展開、そして結果。
これはやはり、恵介マジック、と言って良いんじゃないでしょうかね。
こう御して、こう勝つとは、驚いたなあ……。とても私には想像できないもので、中央ネタになりますが、イーグルカフェのジャパンCダート by フランキー・デットーリを思い出してしまったほどです。
ミュウの生産者および馬主さんは、岩手県滝沢市の齊藤晴司氏。
「チャグチャグ馬コ」で知られる土地で、同氏も祭りに深くかかわっているようです(詳しく語れるほどの知識は持ち合わせておりません)。
北海道外の生産馬による重賞勝利は史上初。との認識ではありますが、大昔のことまでは調べる術がないので、帯広単独開催以降では、と一応の注釈をつけさせていただきます。
ゴールドクイーンは、これまでのレースぶりから増量歓迎、と見ていましたが、テンはいつものように遅かったものの道中で押し上げて障害トップ付け。数字のうえでは紅バラ賞と前半のペースはほぼ同じでしたが、積むぶん大事に構える馬もいましたし、また自身が勝負駆けの意識もあったのでしょう。形を作ると、障害巧者らしく一腰、一旦は突き放されましたが、末までしぶとく歩き、持ち味を活かす好内容。
決め手一歩で今季1勝にとどまるとはいえ、馬体もずいぶんと大きくなりましたし、本当に地力をつけたな、と思います。牝馬としては晩成の感もありますので、まだまだ成長を見込めるのではないでしょうか。
スーパーチヨコは特段にペースが厳しかったとは思えませんし、障害もスムーズでトップ抜け。ただ、下りてからが案外で、末に詰まったのはともかくとしても、紅バラ賞よりパフォーマンスを落とした、と言わざるを得ません。たしかに勝ち馬が動いたにせよ、2クラス下に10キロ与えただけのハンデは言い訳になりませんし、物足りない内容でした。
今季は古馬および牡馬に対しては後半勝負に徹してきましたが、紅バラ賞では番手から抜けての完勝。ここを目標に、しゅんこ(藤野)が作ってきて、世代牝馬同士なら正攻法でOKと踏んでのレース運び、自信もあったことでしょうが、フルに能力を発揮したとは言い難い結果となりました。
それでも、やはり一番強いとは思うのですが、一つ二つ上の世代のお姉さま方に比べると芯が通っていない、そんな印象です。
タカラヴェルベーヌ(4着)は後方でタメて障害一腰、終いも伸び切りました。勝ち負け意識よりも自身のリズムを重視した格好ですが内容十分で、素質馬の今後にも注目です。
アサツユ(5着)も障害すんなり、下りてからは地力の差が出ましたが、自身の内容は上々で健闘と言って良いと思います。自己条件に戻れば期待できるでしょう。
クリスタルハート(6着)はタメて一腰、下りて良い脚を使い、残り10m手前で詰まったものの、一旦は上位勢に接近するかの場面も作りました。自己条件でもひと押し利かない面はありますが、今季の成長大きく、まだ上も見込めそうです。
クリスタルジェンヌ(7着)は後方からでも障害で手間取り、まだ本来のデキにはないということでしょうか。プリンセス賞は決してフロックと言えるような内容ではなかったと思っていますが、良化待ちです。
アバシリモミジ(競走中止)は果敢に前付けしたものの障害でストップ。結果的に、前走(もっと大事に運んでも良かった)の障害で止まった影響もあったかと思いますが、今季は本当に力をつけましたし、立て直しに期待したいところです。
スーパーチヨコだけがA2で、あとはB2とB3の組み合わせ、レースレベル的には高くなかったとの率直な印象も持ちましたが、曳き慣れない荷物の重さを感じながらも、各々が自身と相手と向き合った好レースだったとは思います。
これから、さらに上を目指すのか、身の丈に合った競走生活を送るのか、あるいは次の役目への準備に入るのか、様々な選択肢が生まれるきっかけとなるレースでもありますが、数少ない牝馬限定戦に凡戦なし。それを改めて感じた次第です。
完全な余談。
日本でもお馴染み、英国のロックバンド Queen が1976年にリリースした5thアルバムのタイトルは、「A Day at the Races」。
直訳すれば、レースの日、すなわち「競馬開催日」でしょうか。プロモーションの一環として、同年の10月16日に、実際にケンプトンパーク競馬場でアルバムタイトルを冠した(言うなれば協賛レース?笑)障害競走も行われたそうですが、もちろん日本でも発売された名盤の邦題は、「華麗なるレース」。
名称にクインもしくはクイーンの文字が入ったレースは、日本競馬界に数多く存在しますが、障害競走は、ばんえいのクインカップだけ(ケンプトンパークで行われたのは、サラブレッドが飛越するハードルレースだけど)。
しかも10月16日とは、「ばんえい競馬の日」と制定すべき、と私が勝手に一人で思っている、ばんえい競馬が初めて公式競技として行われた日(1947年)とも一致するではないか笑
こりゃあクインカップにピッタリだ! というわけで(?)、前記事のタイトルに「華麗なるレース」を使わせていただきました(^^;
Queen - Teo Torriatte (Let Us Cling Together)