その宝石の雨は、
草に落ちてカチンカチンと
鳴りました。
それは鳴る筈だったのです。
りんどうの花は刻まれた
天河石(アマゾンストン)と、
打ち劈かれた
天河石で組み上がり、
その葉はなめらかな
硅孔雀石(クリソコラ)
で出来ていました。
黄色な草穂はかがやく
猫睛石(キャッツアイ)、
いちめんの
うめばちそうの花びらは
かすかな虹を含む
乳白の蛋白石、
とうやくの葉は碧玉、
そのつぼみは
紫水晶(アメシスト)の
美しいさきを持っていました。
そしてそれらの中で一番立派なのは小さな野ばらの木でした。
野ばらの枝は茶色の琥珀や
紫がかった霰石(アラゴナイト)
でみがきあげられ、
その実はまっかなルビーでした。
〜宮沢賢治「十力の金剛石」より〜
※( )内にルビを記入しました。