らぶばなです。アッシュ生存設定で英二はなぜか音信不通中です。離れていてもアッシュの想いは変わりません。続きをお楽しみ頂ければ幸いです。
「君の面影を追って(5)」
アッシュに言われた通り、リンジ・ホワンはシュンイチ・イベのオフィシャルサイトと島根の地方新聞の翻訳を続けた。彼は日本人の母親を持つが、父親は中国人なので自宅では英語で会話をしている。
小学校卒業まで日本で過ごしたこともあり、日常会話は問題ない。ただ複雑な漢字や専門用語、日本語独特の言い回しは苦手なので、辞書で調べる必要があった。
「久しぶりに日本語を勉強したよ。。。中国語だったら無理だったな。。。あぁ、それにしても疲れたぁー!!」
タブレットとにらめっこしながら翻訳作業に集中していたリンジは、あくびをしながら腕をのばした。
キツい肉体労働や危ない闇の仕事を任されることに比べれば楽なものである。まとめたレポートを指定されたアドレスに送ると、リンジはベッドの上に倒れこんだ。
(一体、アッシュは何を調べているんだ。。。なんで島根とカメラマン?)
リンクスのボスであるアッシュがなぜ日本について調べているのだろうか。考えれば考えるほど不思議だった。ただ、その理由を頑なに教えてはくれないが。
ートントンー
部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「開いてるよー」
リンジが答えると、アレックスが入ってきた。
「ほら、昼飯だ。ホットドッグは好きか?」
紙袋に入ったランチを机に置いて、彼は椅子に座った。
「仕事ははかどっているか?」
「何とか。あんたのボスは勤勉だねぇ。俺のレポートをくまなくチェックして色々と突っ込んでくる。この間は翻訳がおかしいからやり直せと言われちまった。」
「ははは、ボスには敵わないな」
「一体何を知りたいのやら。。。この間なんて、神話について調べろと言ってきたんだぜ?えぇと。。。アマテラスオオミカミだとか。。。アッシュはストリートキッズのボスだろう? 学者にでもなるつもりか?」
「ボスは好奇心旺盛だからな。気になったものはとことん調べるつもりだろう。」
「日本に興味があるっていうより、この地域のことを知りたいって感じだな。アッシュは島根に行ったことがあるのか?」
「それは無いはずだ」
「ふぅん。。。日本人カメラマンのシュンイチ・イベは?英語話せるみたいだから、会ったことあるんじゃねぇの?」
「。。。。。。」
「アレックス?」
「今夜はボスが下のバーに来る予定だ。それまでにおまえは言われたことをしておけ」
「あ、マジで? やばい。。。まだ翻訳していないのがあった!」
アレックスの言葉にリンジは青ざめた。ホットドッグの残りを口に押し込んで、タブレットを再び手にした。
「あとで俺の子分が様子を見に来るから、必要なものがあれば伝えておけ」
「。。。あぁ、わかった。なんか色々世話になってすまないいな」
最初はどうなることかと思ったが、意外と待遇は良かった。荒っぽい連中かと思いきや、リンジに対する扱いは比較的穏やかだった。だが違和感も感じていた。彼らはまるでリンジを元々その場にいた仲間のように扱うのだ。
「礼ならボスに言え。じゃぁ、またな」
「待てよ、アレックス。リンクスに俺みたいな東洋系の人間っていたか?なんかどいつもこいつも懐かしそうな目で俺を見てくるんだよなぁー」
明らかにアレックスの表情は曇っていた。
「。。。さぁ?」
なんだか苦々しい表情のまま、彼はドアを閉めた。パタンと扉が閉まった後、リンジはコーヒーでホットドッグを流し込んだ。
「ふーん。。。言いたくないってか。。。ま、いいけど。。。」
(そういえば今朝シュンイチ・イベ アートオフィスのスタッフブログが更新されていたな。。。確認しておこう)
「ふぅーん、今日は水泳選手のインタビュー撮影をしたのか。。。一体このブログの何が面白いんだか。。。さっぱり分からないよ。まぁ、写真はすげーんだけど。。。」
主に週末に更新されているブログだが、カメラマン伊部俊一のスタッフが主に撮影の様子を紹介している記事である。
伊部が撮影する内容は多岐に渡る。多くは雑誌社や通信社から依頼を受けているようだが、なかでもスポーツ関連の仕事が多いようでメーカーの商品や試合、スポーツ選手のインタビューなどが多いように感じる。
主に国内の水泳や野球、サッカー、陸上、スキーなど選手の躍動感と生命力の溢れる一瞬の表情をうまくカメラにおさめている。風景写真も美しいが、伊部自身は人物、特にスポーツ選手を撮影するのが合っているのかもしれない。
カメラのことはよく分からないリンジだが、ブログに紹介されている写真を眺めなるのは好きだった。
伊部自身は忙しいらしく、若いアシスタントが「こちらは師匠が撮影した写真です」とブログにて紹介している。そして撮影の様子や雰囲気を細かく丁寧に説明しているのだ。
今日は来月に北の大地で行われるマラソン大会に出場する選手達を撮影したようだ。トラックで練習中の選手達と会場となる風景写真がアップされていた。
写真を眺めていると、ドアをノックする音とともに扉が開いた。こちらの確認もとらずに開けてくるのはアッシュだけだ。
「今ちょうどブログを見ている」
リンジは振り返らずにつぶやいた。
「何か更新されていたか?」
「えーっと、マラソン大会に出場する選手と会場近くの風景写真がアップされてたよ。夕日がすげぇ綺麗だぜ。旅行したくなるな。。。アッシュも見るか?」
タブレットに表示されているのは、旅行ガイドに出てきそうな真っ赤な夕日を背景に海岸にある今にも折れそうな奇妙な形の岩と近くにある鳥居を映した写真だ。だが彼の反応はあっさりしていた。
「写真はいいから、文章の方を読み上げてくれ」
「。。。カメラマンの撮影した写真よりもアシスタントの書いた文章がいいのかよ、変わってんなぁ。。。」
首を傾げながらリンジは画像を閉じてタブレットをスクロールさせた。てっきりアッシュはこのカメラマンのファンなのだとリンジは思っていたのだが違うようだ。今まで何度か翻訳をまとめたレポートをアッシュに送っているが、彼が一番関心を抱いているのはこのブログだった。
リンジは翻訳したての文章を読み上げた。
『今日は師匠と西側にある海岸へ行き、奇岩と鳥居を撮影しました。逆三角形で根元が細く今にもポキンと折れてしまうのではないかと心配する声が聞こえてきそうですね。何十年とこのアンバランスさを保ちながらこの海岸に立つこの岩を見た時、なんとも言えない愛おしさを感じました。誰にも助けを求めず、孤独に耐えながらこの形を保ってきたその岩の生命力と気高さを賞賛したい気分でした。隣に建つ鳥居のように僕もこの岩を見守りたいと思いました。。。』
文章から伝わってくるのは、この記事を書いているアシスタントは随分お人好しで変わったやつだということだ。
(なんで岩なんかに感情移入しているんだ?このアシスタントは?)
「なぁ。。。」
アッシュにいかにこのアシスタントが変わり者か同意を求めようとリンジは顔を上げたが、あることに気づいて続きの言葉がでてこなかった。
彼の表情は柔らかく変化していた。穏やかに微笑むアッシュをみるのは初めてだった。まるで西洋画のように美しく思わず見とれてしまった。ふだんは表情の読みづらい彼だけにリンジは驚いた。
無意識のうちにアッシュの唇は短くある言葉を発していた。小さかったが、口の動きで彼が「エイジ」とつぶやいたことにリンジは気が付いた。
「。。。」
(エイジってこのアシスタントの名前なのか? )
アッシュが求めているのはこのアシスタントそのものなのだと、リンジは悟った。
*続*
(あとがき)
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