らぶばなです
。アッシュのお誕生日創作の後編を更新しました。12日UP予定でしたが、帰省するので早めにUPしておきます。駄作ですが、少しでもお楽しみいただければ幸いです。アッシュ、お誕生日おめでとう!いつまでも君の大ファンだよ!
〜英二とアッシュがお笑いコンビ結成!?〜
「コメディー・ショー」(後編)

「えーと、じゃぁ、まず最初のテーマは。。。『初夜をむかえるカップル』です!」
英二が元気よくテーマを発表した途端、仲間たちから「アッハッハ!」と笑いが出た。童顔のせいで純粋無垢なジュニアハイにしか見えない英二の口から発した『初夜』という言葉に違和感しか感じない。
「ヨォッ!がんばれよ、お二人さん!」
「犯罪じゃねーの?それ!」
リンクスやチャイニーズたちは面白おかしくはやしたてる。
一方のアッシュは、英二が「初夜」と言ったと同時に、お祝い用の高級シャンパンを思い切り吹き出してしまった。
「ブハァッツ!! ゴホッ、ゴホッ! 英二!? 今なんて言った。。。?。。。しょ、しょ、しょや?」
「ボス!大丈夫ですか?」
子分達は突然むせだしたボスを心配したが、アッシュの視線は舞台に釘付けだ。
(何だよ、そのテーマは。。。お前にできるのか?)
信じられないといった表情で英二を見るが、彼はアッシュと目が合うと「応援ありがとう。僕、頑張るからね!」と声には出さず唇だけを動かした。
「。。。。」
(イヤイヤ、そうじゃねぇよ。。。やる気なんて出さないでくれ。。。)
アッシュは早くも頭痛がしてきた。そして気になるのは夫婦役をどちらが演じるかだ。コメディとは言え、心中穏やかではない。
(普通に考えれば英二が新婦役だな。でもショーターが新郎役だなんてなんかムカつくぜ。なんだこの複雑な気持ち。。。)
アッシュはこの感情が何なのか疑問を持ち始めた。そんな彼の気持ちをよそに、ショーターは自慢の紫のモヒカンにピンクのリボンをくくりつけて登場してきた。
「お前が女役なのかよ!」
「ウェェェー!」
仲間達の言葉など全く気にせず、むしろ対抗するかのように大げさに腰をくねらせながらポーズをとる。本人はセクシーさをアピールしているようだが、どうみてもタコのような軟体動物がグニャグニャ動いているようにしか見えない。
わざと裏声で「キャーッ!『初夜』ですって!? 英二のエッチ!ショーコ、恥ずかしいわ〜」と悪ふざけのアドリブをする。
ほとんどのメンバーは、英二が新妻でショーターが新郎の役を演じると思っていたはずだ。しかしその逆だと分かり、仲間達はさらに声援とヤジを送った。
「ショーコ、いいぞー!」
「英二、たっぷり愛してやれよ!」
「ハ。。。ハニー!」
恐る恐る英二はショーターの肩を抱こうとしたが、彼は自分より背が高いので背伸びをしなければならない。足がプルプルと震えている様子を見て、何だか可愛いなとアッシュは思ってしまう。
「最高のディナーだったね。さぁ、今夜は一流ホテルを予約しているよ。僕たちの部屋にいこう。」
英二が精一杯紳士らしく振る舞おうと、ショーターをエスコートすると、ショーターは照れたふりをして「そうね、ダーリン。。。」と英二に寄り添った。
「ヒュー!」
「今夜キメちゃって!」
仲間達が冷やかす中、自分より大きな新妻(しかも男)を丁寧にエスコートしようとする英二の誠実さが感じられる 。普段より男らしく頼もしく感じられるが、このカップルは誰がどう見てもアンバランスだった。
真面目な英二は新郎役を演じ続ける。
「ハニー、部屋に着いたよ?あれ、緊張しているのかい?お水でも持ってこようか?」
どうやら二人は今夜宿泊する部屋のドアの前に着いたようだ。優しく相手を気遣う英二にアッシュはクスッと微笑んだ。状況は違うが、こんな風に気を遣ってくれる時もあるな。。。とじんわり心が温まってきた。
だが、新妻ショーコの気味の悪いオネェ風な裏声が聞こえると、その感情も一瞬で消えてしまった。
「えぇ、一流ホテルに泊まるだなんてアタシ、初めてだから。。。それに、初夜でしょう?恥ずかしくて。。。ショーコ、ドキドキするっ!」
今時こんなぶりっ子の新婦などいるはずがない。ショーターの毒々しい演技にメンバーたちが「グエー!」とわざと吐き気をもよおすフリをする。
英二は毒妻ショーコの手を取って真っ黒なサングラス越しにその瞳を覗き込んだ。
「可愛いマイハニー、サングラス越しでも君の瞳は輝いているよ。特別な夜に相応しい君のためにスイートルームを用意したよ」
普段の英二なら絶対言わないであろう「ハニー」という言葉や少し甘い口調にアッシュの心がなぜかざわついた。嫌悪感があるわけではないが、何かモヤモヤとした気持ちが胸に広がっていく。
「ええっ!? スイート・ルーム? 楽しみだわっ!どんな素敵なお部屋なのかしら!」
わざとらしく手を握りしめて喜ぶ、サングラスをかけた紫モヒカンリボンの新妻に、メンバーたちは失笑する。
「ハニー。さぁ僕がドアを開けよう。『ギギギギギイィィ。。。。』」
まるで幽霊屋敷のドアが軋むような嫌な音を英二がたてながらドアを開けるそぶりを見せた瞬間、ショーターの素早いツッコミが炸裂した。
「なんで 『ギギギー』なんだよ!一流ホテルなんだろうが!
」
ツッコミの勢いと共に英二の後頭部をショーターの大きな手が弾き、”パシコーン!”と軽快な音が響いた。
一瞬だけ沈黙したが、すぐに「アハハハハ!」「どこがスイートルームなんだ!」と一同は笑った。
ジャパニーズスタイルのお笑いがどういうものか分かってきたのだ。
だがアッシュだけは血相を変えて突っ立っていた。体が震え、手に持っていた団扇の柄はほとんど砕けている。すでに皺くちゃになっていたことをまだ仲間たちは気づいていない。
英二とショーターの凸凹コンビのパフォーマンスはまだ続く。次に英二は新妻ショーコを窓に連れていくそぶりをみせた。
「ご覧。。。ハ、ハニー、素晴らしいNYの夜景だね。き、君の綺麗な瞳に乾杯。そしてこ、今夜の二人にも。」
言い慣れていないせいか棒読み状態でカミカミの英二に対し、ショーターは英二の肩に頭を傾け、ウットリと夜景に酔いしれた表情を見せる。まるで大女優ばりの大袈裟な演技を見せるがその頭はリボンの着いた紫モヒカンだ。どこにこんな奇妙な新妻がいようか。
いよいよ二人はベッドへと近づいていく。仲間達は「待ってましたぁ!」と冷やかすので、英二は顔を真っ赤にしている。ショーターは胸に手を当てて深呼吸をしている。
「あらやだ、アタシ。。。緊張してきたわ。ダーリン、この部屋。。。照明が明るいわ。。。ショーコ恥ずかしいの。だって脱がないといけないでしょう? 暗くしてくれるうぅ?
」
着てもいないバスローブを脱ぐのを恥ずかしがってためらうショーターの演技に仲間たちがクックッと笑いをこらえている。アッシュはブランカとの厳しい特訓で身につけた腹式呼吸で気持ちを落ち着かせ、ショーターの演技は完全無視して英二のみに集中していた。
「あぁ、分かったよ。明かりを消そう。。。『フゥーッ!』」
英二は手に火の灯る防災ロウソクを持っているかのように構えて、フゥーッと息を吹きかけたところで、再びショーターのツッコミが炸裂した。
「はぁっ? なんでローソクなんだよ!ここは一流ホテルなんだろうが!」
再び英二の頭にショーターの手が弾かれ、軽快なバチコーン!という音が出たところで仲間たちが大笑いした。
「アハハハハ!」
「もっとマシな部屋を予約してやれよ!」
次の瞬間、ステージの壇上にテーブルが飛んできてショーターを襲った。すんでのところでショーターは家具を避けたが、テーブルの脚は全て折れていた。
「うぉぉぉ!一体なんだ? オーサーか?ゴルツィネか?」
動揺したショーターは敵襲かと勘違いしたが、なぜか目の前にはブチ切れたアッシュが立っていた。それでショーターはとっさに彼がテーブルを足で思い切り蹴飛ばしたのだと理解した。
「ショーター。。。」
彼は怒りに震えていた。
「えっ? アッシュさん? どうかしました?」
ショーターは思わず敬語で話しかけてしまったが、殺気に満ちたボスの表情に気づいたリンクスたちは凍りついている。
(最高のショーだったぜ?)
(一体何がこれほどボスを怒らせたのだろうか。。。)
仲間たちは疑問と恐怖を感じていた。
「ショーター。。。。おまえ、さっきから英二の頭をボコボコ殴りやがって!このハゲ、ふざけるな!ぶっ殺されたいのか!?」
アッシュはショーターから英二を守るように引き剥がし、自分の背後へと移動させた。そしてショーターの胸ぐらを掴んだ。
般若のような表情のボスを見て、リンクス達は静まり返った。
(そうだった。。。)
(相手は『英二』だった。。。)
彼らは忘れていた。ボスにとって英二が「特別な」存在であったことを。
傷でもつけようものなら、それは即死を表すのだ。
アッシュが怒った理由を理解したショーターはニヤニヤ笑いながら、挑発するように裏声をだしながら「きゃー怖い!助けてハニー!」とふざけている。
英二はアッシュの背後からひょっこり顔をだし、何もなかったかのように呑気な声を出した。
「まぁまぁアッシュ、落ち着いて。初めてみたから驚いただろうけど、これはこういうものなんだよー。これがジャパニーズスタイルのお笑いさ」
アッシュは手を離し、信じられないといった表情で振り返った。
「はぁ? どうして殴られて喧嘩を売られてるのにお前はヘラヘラしているんだ?」
(やっぱり日本人はマゾなんだろうか?それとも英二が特別なマゾなんだろうか。。。。)
真剣に考え始めたアッシュをよそに、英二は困った顔でどう説明すればいいのか迷っていた。
(うーん、事前に説明しておけばよかったなあ。何か誤解しているみたいだし。。。)
「これはボケとツッコミなんだ。ちゃんとしたパフォーマンスなんだよ?ショーターは僕をいじめてなんかいないからね、むしろ手加減してくれてたぐらいだ」
「手加減だと? わけが分からない。。。」
混乱するアッシュを見て、英二は「そうだ!」と突然手を叩いた。ジーンズのポケットからそして小さなノートを開いてアッシュに渡した。
「じゃぁ、漫才を体験してみるといい! ここに台本があるから一緒に僕と漫才をやろう!」
「。。。。。。」
当然の提案にアッシュはなんと答えて良いかわからなくなった。
「俺がコメディー・ショーを。。。。!?」
周りがざわつきはじめた。なんて恐ろしいことを言い出すんだと仲間たちは皆無言の抗議をしている。
(白い悪魔と呼ばれる俺たちのボスにコメディをしろだって?)
(こいつは死を恐れないのか? とんでもないやつだな。。。)
全く周りの空気が読めていない英二はいつ通りマイペースだ。
「そう、場を白けさせたんだからね。君には責任をとってもらわないと!」
そんな責任などとるつもりはアッシュにないが、それよりも彼はさきほどのショーターのツッコミを思い出していた。
「俺にはお前を殴れない。。。そんな事絶対にできない。。。」
「何もグーパンチしろなんて言ってないだろ?僕だってそんな痛いのは嫌だよ。じゃぁ、このスリッパを使いな。これなら手より全然痛くないし、痛快な音が出るんだよー」
英二はそう言って近くに落ちていたビニールスリッパを差し出してきた。いかにも安物で、どこで使っていたのかも分からないようなモノだ。確かに手で殴るよりは確かにましだが、それでもこんな薄汚れたスリッパで頭を叩くことに抵抗感があった。
「。。。。」
「君のためにせっかく練習してきたのに。。。やっぱり無理ならショーターと続きをやるよ」
悲しそうな表情の英二を見て、腕をのばしながらその小さな背中に思わずストップをかけた。
「いや、待てエィ!」
(俺は、英二が殴られる姿なんて耐えられない)
先ほどのショーターからの激しいツッコミと後頭部への攻撃がスローモーションのように頭をよぎった。
(あんなのもう見たくない。今夜、夢に出てきそうだ。。。チッ)
信じられないだろうが、アッシュはどこまでも英二のためなら身を捧げることができる勇敢で愛情深い男なのだ。そして英二がどれほど頑固な男なのかも理解していた。アッシュが否定すれば彼は何としてもショーターとショーをやり遂げるだろう。ショーターのでかい手で殴られる姿を想像すると、胸が締め付けられそうになる。
「本当にこれだと痛くないのか?」
なんとアッシュは自分のボスとしての立場より、この軽い安物のビニールスリッパが英二にどれだけの衝撃を与えるのかを死ぬほど心配していた。彼はスリッパをトントン叩きながらどの角度なら痛くないのかを真剣に考えている。
「うん。大丈夫!」
「チッ、仕方ないな。。。ちょっとだけだぞ?」
「やってくれるのかい?やったー!みんな、アッシュがパフォーマンスしてくれるって!」
両手を振りながら英二は仲間に伝える。ボスからまさかの出演OKが出て、仲間たちはお互いの顔を見合わせている。
「一体何が起きているんだ?」
「ボスはどうしちまったんだ?」
「なんか英二に秘密でも握られてるのかな?」
「そう言えばあいつ、ボスの銃を触らせてくれと頼んでいたよな。。。やっぱりスゲェやつなんだな」
どよめきと歓声が止まないなか、なぜかアッシュは台本を持ったまま英二とコメディ・ショーの舞台に立つことになってしまった。
***
台本が書かれたノートによると、次のテーマは「誘拐事件」らしい。
「そういえばアッシュ。最近怖い事件が多いね」
物騒な事件が起きるのが日常茶飯事なこの界隈で「怖い事件」と言われてもピンとこないが、アッシュは台本通り自分のセリフを読む。
「。。。例えばどんな?」
「子供を狙った誘拐事件とか。僕が犯人役を演じてみるよ。君は誘拐された子供の父親役を演じてくれ」
英二が犯人役だなんて似合わないと思いつつも、アッシュは素直に自分のセリフを読んだ。
「分かった。そうしよう」
(さっきの『初夜』云々よりまともそうなネタで良かった)
内心安堵しながら、早くネタが終わるようにアッシュは祈っていた。腰に挟んだのがいつもの銃ではなくビニールスリッパなのが何とも心もとない。
「もしもし。。。おたくに小学1年生の息子がいるだろう?へへへ。。。」
怪しげな中年男性を演じているのだろうが、やはり子供にしか見えない英二が脅迫しても全く怖くはない。
「えっ?そうですけど。。。一体。。。」
アッシュは無表情のまま棒読みで誘拐された親のセリフを言うと、すかさず英二がボケた。
「うちには6年生の息子がいるぜ!」
「ダハハハハ!」
「そんな事どうでもいいよ!」
仲間達の笑い声の後、英二はアッシュを見た。「さぁ、スリッパで殴ってくれ」と期待で瞳を潤ませている。アッシュは意識が飛びそうになった。
(やはり英二はドMだったのか? なぜそこまで自分を殴れと言う?しかもそんな嬉しそうなキラキラした瞳で見つめられると、俺は危ない世界に足を踏み入れてしまいそうになっちまう。。。)
アッシュは最も過酷な闇社会を知っているはずなのに、彼は理性と戦っていた。いつまでたっても頭を叩かれない英二は深いため息をついた。
「ちょっとー!アッシュ、ちゃんとツッコミいれてくれよぉ!もう、根性なし!」
思うようにネタが展開しなかった英二はほおを膨らませた。睨みつけられても可愛らしさがアップするだけだ。
先ほど壊した団扇を惜しく思いながらも、アッシュは「ああ」と覚悟を決めて英二のフワフワした後頭部に狙いを定めた。
。。。ポコッ!
それはとても小さな音だった。
(めっちゃソフトだ!)
(絶対痛くないやつ)
(加減しすぎだろ。。。)
仲間たちはこれでもボスが精一杯努力したことは理解していた。
「んー、もうちょっと強めがいいかなぁ?」
英二はいまいち納得していないようだったが、それでもショーを続けた。
「息子を返して欲しければ、金を用意しろ。こちらの指定した方法で公衆電話に金をもってこい」
「どんな方法だ!?」
アッシュの問いに英二は超高速スピードで答えた。
「紫のスーツケースに450万ドルを詰めて白い紙に黄色のボストンバックと書いて赤のハンドバックと言いながら置いたら俺は黒のショルダーバックと言いながら取りにー」
息つく間もなくボケを散りばめた返答をしたにも関わらず、アッシュは無言のまま突っ立っていた。
「。。。。」
本来ならここで「なんだ、それ!」と言いながらスリッパで叩くのだが、そうする様子はない。
代わりに「アハハハ!」「わかんねーよ!」と仲間たちが突っ込んでくれた。
アッシュは小さな声でブツブツと台本に文句を言いはじめた。
「要するに紫のスーツケースでいいんじゃないか。後半は要らないだろう?この台本、書き直せよ」
「アッシュ!そんなこと言わないで!コメディショーなんだから!ほら、スリッパで僕を叩いて!早く。。。GO!」
「。。。。。」
アッシュはスリッパを眺めながら握りしめたが、ポイっと床に放り投げてしまった。そしてまるで誰かにドラッグを無理やり投与されたかのごとく苦しそうに顔を歪めながらアッシュは英二に訴えかけた。
「あぁ、もうやめてくれ!俺にお前を叩くことなんて出来るわけがないだろう?そんなの拷問だ。。。いっそ俺を殺してくれ!」
大げさに苦しみの表情を見せるアッシュに、英二は少々面食らった。
「。。。ん? アッシュ? 君、なんか変だよ?」
(僕は彼のトラウマを思い出させるような何かをしでかしたのか?)
たかだかスリッパで頭を叩くだなんて、学園祭のノリじゃないかと英二は思っていたのだが、あいにく目の前の親友は学校生活もロクに送っておらず、しかも英二のことが誰よりも大事なのだ。
「俺がオニイチャンを叩くだなんて。。。まるで子供を虐待しているみたいでシャレにならないだろ?」
「。。。。。!!!」
はっきりと「子供」と言われて英二はショックを受けた。他人に言われるよりアッシュに言われる方が何倍も傷つく。だがすぐにその悲しみは怒りに変換された。
つかつかと英二は舞台に落ちていたスリッパを拾いあげ、アッシュを睨みつけた。そして手を天井に向かってそれを思い切り高く振り上げた。
「いい加減にしろ。。。僕は君より2歳も年上だーっ!!!!」
美しい曲線を見せながらスリッパはアッシュの後頭部に向かっていく。そして軽快な音が部屋に鳴り響いた。
スパコォォーン!!!
子供扱いされた英二は鼻息荒くまだ怒っていたが、アッシュは呆然としていた。彼は何が起きたのかいまいち分かっていないようだ。
まさか英二に叩かれるとは思っていなかったようだ。もちろん殴られるほどの衝撃はないが、精神的なショックは大きかった。
リンクス達はボスが思い切りスリッパで殴られるのを見て、青ざめている。震えるものや、ボスの怒りを恐れてソファの裏に隠れようとするものもいた。そして数名は英二がボスよりも年上だと初めて知ってひどく動揺していた。
「おい。。。何をするんだ、英二!」
ようやく我に返ったアッシュが文句を言う。
「君が意気地なしだからだ。ツッコミはこうするんだよ!」
フンッと頬を膨らませながら腕組みをする英二はどうみても拗ねたガキだった。
「なにぃ? 俺が意気地なしだと? 俺にもできる!」
スリッパを持ったまま、アッシュは無言で英二を睨みつけた。
アレックスやボーンズ、コングはハラハラしながら二人を見守っていた。これまでボスが英二に暴力を振るったことなど一度もない。
アッシュは手を高く振り上げ、なぜか英二の隣にいたショーターの頭を思い切り(英二の時の3倍ほどの音がした)叩いた。
バッチコォォーン!!!!!
「イッテェェー!おいコラ、アッシュ!なんで俺を叩くんだよ!」
涙を浮かべ、頭に手を当てるショーター。
「うるせぇ、ちょうど叩き心地のようさそうなハゲ頭が見えたから試しただけだ!」
「ハゲじゃねぇ、剃ってるんだよ!しかも髪のねぇところで叩きやがって!」
「へん、これで少しは毛根に刺激が伝わったんじゃねぇのか?感謝してもらいたいね!気色悪い演技見せやがって!」
「お前のキャンディーバーソングよりマシだぜ?酔っ払った時に披露してくれたよな?」
「て、てめぇ!それをここでいうんじゃねえ!」
ギャーギャーと騒ぎはじめた二人を前に英二はポカーンと放心状態だ。こんな展開、だれが想像していただろうか。
「。。。。。。」
しばらく様子をみていたが、英二は次第に可笑しくなり、腹をかかえて笑い出した。
「あははははー!君達最高だ!さすが親友同士だね!長い付き合いだからか息もピッタリだったよ。羨ましいなぁー」
英二の笑い声に場の雰囲気が和みだした。リンクス達も笑い出し、喧嘩寸前のアッシュとショーターもばかばかしくて口論をやめた。
「英二。あのー、これはだなぁ。。。」
バツの悪そうなアッシュに、英二はニッコリと笑いかけた。
「君にパフォーマンスを見せるどころか、逆に見せてもらった気分だったよ!あー、おかしかった!やっぱりアッシュはすごいよ!」
「そ、そうか?」
英二に褒められたアッシュは照れ臭そうに頭を掻き、ショーターもカラカラと楽しそうに笑っていた。
「みんな〜、コメディ・ショーはもうおしまい!ありがとー!」
手を振りながら挨拶をした英二に馴染みのある声が飛んできた。
「英二ー!よかったぞー!」
「おまえ、やっぱり最強だぜ!」
ボーンズ、コング、アレックスはそれぞれ応援団扇を持って手を振った。
『変顔して!』
『お嫁さんにして!』
『ほっぺでたこ焼きして!』
もちろん日本語のメッセージはランダムに選んだものなので、その意味など理解はしていない。
英二は苦笑しながらも母国語を見て嬉しそうに指差した。
「あははは!何だよこれ!」
英二はいたずらっぽく微笑みながらアッシュの方を振り向き、人差し指と親指で丸い輪を作り、ほっぺに当ててニコリと笑った。
ぷくっと頬に立体的な丸みが浮かぶ。そして上目遣いでアッシュを見つめた。
「ハニー、僕のたこ焼きを召し上がれ」
英二の感覚では、『変顔(たこ焼きほっぺ)を新妻(嫁)に見せるというネタ』で、リンクスたちの団扇のリクエストを全て叶えたつもりだった。
「ーーーー!!!!」
(なんだこの破壊力!)
ガラガラと理性が砕け落ちるような音がしたのは気のせいだろうか。アッシュは腰が砕けそうになったが、何とかこらえて逆襲することにした。
「じゃ、遠慮なくイタダキマス」
アッシュはニヤリと笑い、英二のほっぺたこ焼きを彼の指ごとカブっと噛みついた。それは一瞬のことで痛みはなかったものの、頬に硬い歯と温かい口内の体温、そして柔らかな唇の感覚が残って何とも言えない気分だった。
「ギャァァァァー!!!な、なんてことするんだよっ!」
頬を抑えながら最大限に真っ赤になって、涙目でアッシュに抗議をするが、アッシュは取り合わない。
「おまえが食えっていうからだろ」
「ジョークが通じないのかよ!本当に噛むなんて信じられない。。。」
あわあわと慌てる英二がおかしくて、アッシュは腹を抱えて笑いだした。
「アーハハハ!おっかしーの!」
「こらぁ、年上を揶揄うんじゃない!」
ポカポカと背中を叩く英二は駄々をこねる子供にしか見えない。
ショーターは「面白いもんが見れたぜ」とガハガハ笑い、「笑ったし、さっさと帰ろうぜ!」と仲間と帰ってしまった。
アレックスは「ボスの役にたてた」と満足そうに頷いていた。そして何事かと見守っていた大勢の仲間達も、アッシュの大笑いを見て「ボスは英二をからかっているだけ」と理解した。
こうしてパーティーはお開きとなった。アッシュは英二を連れてさっさとアパートへ戻り、子分の数名だけが会場に残った。
ボーンズとコングがテーブルと椅子を片付けながらお喋りをしている。
「今年のバースデー・パーティーは。。。何というか、強烈だったな。でも。。。ボスは嬉しそうだったな」
「あぁ、英二のおかげだな。あんなに本気で笑っているボスを見たのは初めてかもしれない」
コメディー・ショーは中断されて成功とは言えなかったが、ボーンズとコングは英二に翻弄される貴重なボスの間抜け顔や、本当に楽しそうに笑うボスの笑顔を見れたこのバースデー・パーティーに参加できたことに感謝した。
そしてアッシュも、後に「人生で一番くだらなくて最高のバースデー・パーティーだった」と仲間に語っている。
*続*
(あとがき)
前半、大丈夫でしたか? マニアックなアレックス(笑)彼は真面目なだけなんです。。。アッシュもちょっと心配性でオニイチャンが大好きなだけなんですよー怪しい気持ちはありません。。。ふざけた内容で申し訳ないですが、わちゃわちゃした楽しいパーティーを過ごしてほしいなと思いました。ご感想、ご意見を聞かせて頂けると飛び上がって喜びます



















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