らぶばなです。14歳のアッシュがもし可愛い黒猫と出会っていたら。。。黒猫ちゃん、ディノ邸なんかうろついていて大丈夫でしょうか?心配です。。。お楽しみ頂ければ幸いです。!
「黒猫と14歳のアッシュの出会い(4)」
第四章:離れたくない
アッシュはしばらく周りを警戒していたが、ディノの手下が周りにいないことを確信すると黒猫になった英二の方に近づいてきた。
「もう大丈夫だ、出ておいで」
優しい口調だった。アッシュは黒猫英二に指を差し出してきた。黒猫英二は鼻の先でクンクンと匂いを嗅いだ。
(覚えている、この匂い。。。数日前にも彼に会ったはず)
黒猫英二は嬉しくてのどをゴロゴロ鳴らしながらアッシュに甘えた。英二の耳は前方を向き、目は半分閉じている。今にも眠ってしまいそうな夢見心地な気分だ。
(あぁ、なんて気持ちがいいんだろう、落ち着くな。。。アッシュってすごく綺麗だよな。。。大人っぽくみえるけど僕より年下だよね。。。? まだ子供なのに、なんであんな怖そうな人たちと一緒にいるんだろう?)
状況がつかめていない英二は疑問がたくさん浮かぶものの、心地よさと眠気に負けてアッシュの体温を感じて目を閉じた。
「おやすみ。。。」
寝入った黒猫を見守るように頭を優しくアッシュは撫でた後、静かに立ち上がり 屋敷の方に歩いて行く。
庭園を通り抜けて屋敷に向かう途中、先ほど話したディノの手下が庭師と話をしているのが見えた。妙な組み合わせが気になり、彼らの視界に入らぬよう、低木や花壇の影に身をひそめて二人の会話をうかがう。
「庭に毒を撒け、ですと?」
驚きのあまり、庭師の声が裏返った。
ディノの手下はにやにや笑いながら自分のアイディアを庭師に語り出した。
「どうだ、いい案だろう? こっちは最近現れる野良猫をさっさと始末しないといけないんだよ。この間、パパディノのお気に入りの鉢植えが壊されて機嫌が悪いのはアンタも知ってるだろう? このまま庭を荒らされ続けられるのはアンタも嫌だろう? 手っ取り早く野良猫を毒殺すればいいんじゃないか?」
手下は野良猫のせいでよほど苛立っているらしい。
「はぁ。。。」
庭師は困ったような表情を浮かべていた。
「しかし、他の植物にも影響がでてしまうかもしれません。ご主人様がお好きなバラや蘭が万が一枯れるような事があっては大変かと。。。」
「チッ。。。手っ取り早く野良猫を殺せると思ったのに。。。」
手下は舌打ちした後、新しい案が浮かんだようだ。
「そうだ、もっと手っ取り早く、毒入りの餌を置いておけばいい。パパ・ディノの飼い猫が食う高級なキャットフードに毒を混ぜてやろう。いいか、勝手に処分するなよ。。。それからパパ・ディノにも言うな」
困り果てる庭師を放置して、男は不敵な笑みを浮かべて屋敷の方に消えた。
(。。。。。)
「チッ」
黙って聞いていたアッシュは舌打ちをして、再び黒猫のところへと戻った。
黒猫英二は急に体を揺すぶられて目を覚ました。
「みゃう? 」
(なに?。。。アッシュ!?)
アッシュが自分の体を抱えてどこかへ移動していく。何事かと思ったが、彼の表情は硬い。
やがて壁のように囲まれた樹林のもとに着くと彼は突然黒猫英二を敷地の外へにほとんど放り出すように投げ出した。
「みゃっ!」
猫はジャンプが得意なので難なく着地したが、黒猫英二はアッシュの行動が理解できなかった。
(な、何すんだよ?さっきまで優しくしてくれてたのに。。。)
アッシュは背を向けて屋敷に戻ろうとする。英二は慌ててアッシュを追いかけようとする。
「来るな! おまえはこっちにもう来るな。。。」
強い口調だった。だがそういう彼の表情はどこか哀しそうだった。
「みゃぉ、みゃぉ、みゃぉ!」
(どうしてだよ、いいじゃないか。アッシュのそばにいさせてくれよ!)
すがりつく黒猫英二に、アッシュはしゃがみこんで彼の体を一度抱きしめた後、諭すように言った。
「ここは危険だから逃げろ。おまえは殺されるぞ。こんなところより外でのびのび暮らせ」
「。。。。」
(なんて哀しそうな顔なんだ。。。)
彼の指先は優しく愛しそうに黒猫英二の体を撫でるのに、表情は自分を戒めるように厳しいものがあった。だがどこか哀しさが漂っていた。黒猫英二は思わず尻尾をダランと下げたまま、
去って行くアッシュの背中に向かって、英二はどうすることもできず、ただ「みゃおー」と鳴き続けた。そして視界が白っぽくぼやけてくるのを感じた。
どれくらい時間が経ったのだろうか。朝日が窓から差し込んでいる。
「はっ!」
英二は目を覚ました。キョロキョロと何かを探すようにあたりを見渡すが、いつもの自分の部屋だ。
「あれ。。。?僕なにか探していたような気がしたけど。。。なんだっけ。。。」
なぜか自分の手足をじっとみてペタペタと触るが特に問題はない。なぜ自分がそんな行動をしたのかもよくわからない。
ぼんやりした頭をかかえたまま壁にかかった時計の時間を見て、英二は現実に戻される。
「わ、もう6時半! 朝練の時間だ!起きなきゃ。。。。!」
心の中に何か違和感を感じながらも、それが何かを思い出せなかった。
「変な夢でも見たのかな。。。。?すっごく長い夢だったような。。。。」
ボサボサになった頭を手ぐしで直しながら英二は首を傾げた。
***
客間でディノに「遅い」と小言を言われながらも、アッシュは新しい教師を紹介された。細身で背が高く、非常に真面目そうな男性だった。「将来有望な幹部候補を教育したい」というディノの要望に応えようと男はアッシュに興味津々だったが、アッシュは全く教師自身には興味が無かった。いかにこの教師が優秀なのかディノは自慢していた。多少はアッシュの知的好奇心を満たしてくれるだろうが、長くは持たないだろうと思った。
いつも最終的には教師が自分の体を求めてくる。そして「おまえが誘ったのだ」とアッシュを責めるのだ。正直うんざりしていた。
気分転換がしたくて、「読書をする」と言ってアッシュは屋敷から庭に出た。やはりいつもの”指定席”へと向かう。途中で、ディノの手下が用意したらしい「毒入りの猫缶」を見つけた。その中身が減っていないことを確認し、胸をなでおろした。
(良かった。。。無事でいてくれよ。。。もう会えないのは寂しいな。。。)
ところが、次の瞬間、アッシュの視界に例の黒猫が前足を折りたたんで座っていいた。耳はゆったりと空に向かって経っていて、その愛らしい丸々とした瞳は半開きでトロンとしていた。
「えっ!なんでおまえ。。。いるんだよ!」
黒猫はアッシュの足元にすり寄ってきて、頭をこすりつけてきた。
(狙われているのに呑気なもんだ。。。)
アッシュはハァーとため息をついた。そして手下が置いていった餌を指差した。
「おまえ、あの缶詰に入った餌は絶対に食うなよ! 。。。ってわかるかな。。。コイツ。。。」
黒猫になった英二には、アッシュの話す英語は早すぎてほとんど聞き取れないが、彼の表情と手振り、そしてわずかに聞き取れた「食べるな」という言葉、そして猫本来の嗅覚が「何かよくないものが入っている」と訴えていた。
「みゃ!」
(わかってるよ、これは食べちゃいけないんだろ?さっきの怖そうな人が置いていったのを見たからな)
黒猫英二は缶詰に近づくと、それを思い切り蹴飛ばした。そしてアッシュの方を振り返り「みゃみゃ!」とまるでどうだと言わんばかりのドヤ顔を見せた。
「。。。。フッ、おまえ、わかってるじゃないか。そうだ、庭に置いてある食べ物は全部毒入りだと思った方がいい」
自分の言いたかったことがどうやら伝わったようで、アッシュはホッとした。だがまだまだ安心はできない。
「どうしたら出て行くんだ?おまえは。。。?」
その場にアッシュはしゃがみこんでしまった。
「みゃう、みゃう、みゃうー!」
(そんなの嫌に決まってるよ!)
黒猫英二はポンポンとアッシュの膝を軽く肉球で二、三回叩いた。
「おまえ、頑固そうだなぁ。。。お前のことずっと守ってやることはできないんだぜ?わかってるのか?」
じーっと翡翠色の瞳に見つめられ、黒猫英二は照れた。
「みゃん、みゃん!」
(なんか恥ずかしいな。。。それよりさ、君が持ってるものちょうだい!)
アッシュの背後に回り込み、ジーンズのポケットをガリガリと爪でこすりはじめた。
「おい、やめろよ。。。。ってとっくにバレてたか」
ポケットに手を伸ばし、中から小さなビスケットを取り出した。
先ほど客間で出された茶菓子をくすねてきたものだ。もうとっくに黒猫は屋敷から出ていったはずなのに、なぜ猫のために食べない菓子を手にとるのか。自分の相反する行動にアッシュは戸惑っていた。
逃げて欲しいと思う反面、無垢な黒猫とのひとときに癒されたいという思いも同時にあり、そしてわずかに猫がまだにることを期待してしまった自分がいた。
自分にビスケットをおねだりをする黒猫が可愛くて、思わずアッシュは抱きしめてしまった。
「困ったな。。。おまえ。。。本当に。。。」
どうしたものかと、深いため息をもう一度アッシュはついた。
*続*
(あとがき)
お読みいただきありがとうございます!黒猫ちゃんの身に危険が。。。毒餌とか色々なトラップを仕掛けてきそうですよね。そしてなんだかんだ言って黒猫が心配なアッシュ よければ小説へのご感想、リクエスト等お聞かせくださいね。
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