らぶばなです。59丁目のアパートでの思い出をシリーズにして数話お届けしたいと思います。アパートではこんな思い出があったのではないかなという妄想シリーズです。。。 お楽しみ頂ければ幸いです。!
59丁目アパートメントの思い出シリーズ
「アッシュを巡るアパート内バトル」(最終)
第六話:最強の理解者
「じゃぁ、出かけてくる。コングとボーンズを呼んであるから」
「そう、分かったよ」
「ドアを開ける時はちゃんと注意しろよ、最近妙なことが起きているから」
「妙なことって?」
英二の言葉に一瞬アッシュは体を硬くし、若干気まずそうな表情を見せたが、小さなため息をついて背中を向けた。
「。。。何でもないよ。また後で」
深刻な表情ではなかったので、英二はそれ以上追求はしなかった。
「うん。いってらっしゃい」
笑顔で手を振って見送った。
「さーて、掃除機でもかけるか」
伸びをして、掃除にとりかかろうとしたところ、玄関のインターホンが鳴った。
「早いな。コング、ボーンズ? もう来たの?」
ガチャリとドアを開けると、そこにはニキータが立っていた。
「ハーイ!エイジ!」
「ニキータ!」
なぜここにいるのかという驚きと、たった今アッシュにドアを開ける時はよく確認しろと言われたのに思い込みで開けてしまったことを後悔した。
「どうしたの?」
「クリス、さっき外出したでしょ? 彼を見かけたから」
英二は腕時計を見た。
「君、学校は?」
もうとっくに授業は始まっている時間だ。体調が悪いのだろうかと思ったが、目の前の彼女はどうみても元気そのものだ。
「今日はそんな気分じゃないの。クリスがいないのは残念だけど、エイジ、私と一緒に出かけない?」
「ニキータ!困るよ。。。君のご両親や先生が心配する。それに僕もいろいろあって、勝手に外出できないんだよ」
首を傾げながらニキータは尋ねた。
「どうして自由に外出できないの?」
英二はどう説明すべきか迷ったが、ごまかすしかない。
「それは。。。僕の事情で。。。君には関係のないことだよ」
傷つけないようできるだけ柔らかいトーンで言ったが、ニキータはやはりショックを受けたようだ。
「ほら、君の階まで送るよ。クリスもここにいないし、居ても意味ないだろう? 僕と一緒に行こう」
帰るように促すが、ニキータは首を振って拒否した。
「いやだ! 私、エイジと一緒にいる!エイジじゃないと嫌だ! 」
彼女の必死さと不自然な言動に英二は「もしや。。。」と状況をようやく察しはじめた。
「ニキータ。。。? 君、クリスのことが好きじゃなかったのかい?」
「それは。。。」
「いくら鈍い僕でもわかるよ。君はクリスを好きじゃないって。。。」
「。。。。」
ニキータは視線を合わせるのが怖いのか、床を見たまま立ちつくしている。英二は彼女の頭を優しく撫でて声をかけた。
「怒ったりしないよ。僕たち友達だろう?。どうして嘘なんて付いてたの? 」
観念したのか、小さなため息をついたあと、震えるような小さな声で彼女は言った。
「確かにクリスは綺麗だけど、私はエイジが好き。でも気持ちを伝えるのは恥ずかしいし、相手にされないだろうって思って。。。少しでもエイジにこっちを向いてもらいたくて、クリスを好きなフリをした。。。エイジは優しいからきっと私の話を聞いてくれるって。。。」
英二はそっと優しくニキータにハグをした。
「そっか。。。ニキータ、ありがとう。君みたいな可愛い女の子がそんな風に想ってくれて僕はすごく嬉しいよ。でもね、君が僕を想ってくれるように、僕もクリスのことが大事なんだ。彼も僕を大事にしてくれている。。。どうか見守っていてほしい」
柔らかい感覚に包まれたニキータは、きっとこれが最後の抱擁だと感じていた。大好きな英二からのお願いをどう断ることができるのだろうか。
「うぅ。。。」
顔を上げたものの、涙目のニキータは顔を見られるのが恥ずかしいのか、英二に背を向けて目をこすりながら何も言わずに走り去っていった。
「あ、ニキータ!」
呼び止めたが、振り返ることなく階段から自分の部屋へと戻っていった。
***
セントラルパーク内にあるベーカリーカフェでアッシュはマックスと会い、打ち合わせを終えたあと日光浴を兼ねて芝生広場を歩いていた。
ニューヨークのビル群を背景にはるか遠くまで広がる緑が目に心地よい。騒々しい都会の忙しさや鬱蒼とした日々の不安を一時的に忘れさせてくれそうだ。
パーク内にある売店に立ち寄り、英二へのお土産にマフィンとコーヒーを買った。手渡した時の英二の喜ぶ顔を思い浮かべると、アッシュの心も温かく穏やかな気持ちになるから不思議だ。
急ぎ足でアパートへ戻ろうとしたが、ふと、すぐ近くのベンチに見覚えのある顔の少女が座っているのが見えた。
「チッ、よりによって。。。ん?」
目をこすり、いかにも落ち込んでいる様子のニキータが気になった。放っておこうかと思ったが、自分に対して喧嘩腰の少女の姿と正反対だ。
「よう、サボりか?不良少女め」
声をかけられてビクッと驚きた彼女はおずおずと目線をあげたが、アッシュだと認識すると本来の気の強さを取り戻した。
「クリス!あなたこそ学校はどうしたのよ!」
「俺?おまえと同じようなもんだよ」
「へぇ〜、クリスもサボったりするんだ」
「まぁな」
(サボりも何も、学校なんて行ってねぇし)
適当に話を合わせながら、アッシュはニキータの隣に腰掛けた。
「こんなところで何してるの?」
「ふん!あなたに関係ないでしょ!」
「そうだな」
そう答えながらも、アッシュはその場から離れない。しばらくの沈黙の後、ニキータはぽつりと呟いた。
「よかったわね、私。。。エイジに振られたわ!予想通りだったけど、見事にね!」
「あいつに?」
アッシュはニキータに視線を向けた。突然美しいヒスイ色に目を覗き込まれ、ニキータはどきりとしたが強気のまま言い切った。
「そうよ!クリスのことが大事だから私の家には来れないって。どうか見守っていてくれって!あんなに優しくお願いされたら、どうしようもないじゃない。。。」
「。。。。」
アッシュは言葉が出なかった。英二をよそに奪われなかったという安堵、英二ならきっとそう言うだろうという彼への信頼、そして不思議な心あたたまる感覚がアッシュを包み込んでいた。
気持ちの余裕がある分、アッシュはほんの少しだけ、この少女がかわいそうに思えてしまった。
「これからまだまだ出会いはあるだろう。まだガキなんだし」
「ガキって何よ!? エイジとはちょっとしか変わらないじゃない」
ニキータの言葉にアッシュは思わずゴホッゴホッと咳き込んでしまった。
「。。。は?おまえ、あいつをいくつだと思ってるんだよ?」
「13、14歳くらいでしょ?」
「。。。頼むから、それを英二には言うなよ」
アッシュはため息をついた。
「?? それよりも。。。クリス、エイジをあまりこき使わないでね、かわいそうだから!」
「なんだよ、それ。。。」
「あまり自由に外出できないみたいだし、何か事情がありそうだし。。。話してくれなかったけど。。。」
「心配しなくても、俺はあいつをこき使ったりしていない。あいつはハウスキーパーじゃないんだ。料理や洗濯はあいつが好きでやってくれているだけなんだから。。。あいつのサポートに正直助かっているから俺もあいつに甘えているだけだ。。。」
穏やかに微笑みながら英二への感謝の気持ちを口にするアッシュを見て、ニキータは驚いた。いつもクールでどこか冷めた印象のある彼がこんなに柔らかい表情をしているのは初めてだった。
二人の間に何か特別なつながりをあるのを鋭く感じ取ったニキータは、自分が思い違いをしているのではと思い始めた。
「まさか。。。エイジってハウスキーパーじゃなくて。。。クリスの婚約者なの?」
「!!!」
とんでもない勘違いに思わずアッシュはお土産の入った紙袋を落としそうになった。
(なんでそうなるんだよ!)
なぜか落ち込んでいたはずのニキータは急に元気が出てきた。否定しようとするアッシュの顔に向けて小さな手のひらをバッと開いて「心配しないで」と言う。
「いいの、エイジが幸せなら。。。!私、口が堅いから黙っているわ。同性同士だと色々と悪く言う大人もいるもの。ママ友達に知られると面倒よね、クリスが成人して家を出るまで、エイジはハウスキーパーと思ってくれていた方が都合いいものね!」
「お、おい。。。」
(わけがわからねぇ!)
失恋して落ち込んでいたはずなのに、恋敵を応援しだした少女の考えがさっぱり理解できず、アッシュは戸惑った。しかもなぜかエネルギーに満ち溢れているではないか。
「泣いてスッキリしたわ。でも後悔していない。。。エイジとのことは応援するから、彼を幸せにしてあげて!いい!? 束縛しすぎはだめだから、たまにはリフレッシュさせてあげてよね!クリス、分かった?」
「お、おう。。。」
(。。。なんで俺は頷いているんだ!?)
ニキータの勢いについアッシュは少々混乱しながらも頷いてしまった。
「それじゃぁ、学校行ってくるわ。エイジによろしく!」
呆然とするアッシュを置いて、ニキータは走って行った。
「なんか。。。疲れた。。。」
全身をとりまく疲労感になぜか早く帰って、英二の顔がみたいと思ってしまった。
***
「おかえり!わぁ、お土産? 嬉しいなぁー」
紙袋を差し出すと、英二は嬉しそうに受け取り、マフィンを温めるためにキッチンへと向かった。
柔らかい彼の笑顔を見て、先ほどまでの疲労感が無くなり、重苦しかった気分も浄化されたようだ。
「オニイチャン効果すごいわ。。。」
何気なく思ったことがうっかり口に出ていて、英二が「どうかしたー?」と尋ねてきた。
「いや、コーヒーが冷めちまったと言っただけだ」
「温めなおそうか?」
英二が聞いた時、玄関のインターホンが鳴った。
「ボーンズ、コングいらっしゃい!ちょうどよかった、アッシュがお土産にマフィンを買ってきてくれたんだ」
いつもならすぐに食いついてくるはずの二人だが、様子がおかしい。
「おまえら、どうした?」
何か事件でも起きたのかとアッシュの視線が鋭くなる。二人は顔を見合わせ、戸惑いの様子を見せながらもボスに嘘をつくことはでき何ので何とも言えない表情のまま話し始めた。
「妙なガキにからまれて。。。」
「妙なガキ?」
アッシュは首を傾げた。
「なんて言うか。。。俺たちがボスと英二のところに行こうとしたら、ここの住民の子供だと思うけど、10歳ぐらいの女の子に呼び止められて。。。”邪魔をするな” とか ”二人きりにしろ”とか ”気が利かない”とか言われて。。。」
「あのガキ、何だったんだろう?とにかく煩かったな。。。”二人は私が守る” とか言い出すし。。。」
思い当たるのはニキータしかいない。
「。。。。。。」
アッシュは今日一番の深いため息をついた。
「アッシュ?」
心配そうにアッシュを見る英二の肩をポンと叩くも、勝手に勘違いしたニキータの誤解を解く手も暇もなかった。
「オニイチャンのことをすっげー応援してくれるやつがいるってことさ。本当にモテるな、おまえは。。。」
「??」
「まぁ、なるようになるさ。。。。幸い”秘密”は守ってくれるみたいだし」
こうしてしばらくボーンズとコングは見知らぬ少女から謎の説教を受け、アッシュと英二は勘違いしたままの少女から二人の関係を応援されることになった。
*終*
(あとがき)
お読みいただきありがとうございます!なぜかニキータに二人の関係を妙な方向に勘違いされてしまいましたが、「もう面倒臭い」のと「なんか面白い」のとでアッシュはそのまま放置することにしたようです。よければ小説へのご感想、リクエスト等お聞かせくださいね。
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