らぶばなです。長かったこのシリーズも第18話で最終回です!アニメ終了後、アッシュロスに凹む皆さまの心を癒せればと思って続けてきましたが、ようやくここまできました。。。長かった。。。しんどかった。。。でもアッシュと英二の話がかけて幸せでしたし、たくさんの拍手と応援のお声に励まされました。ありがとうございます。最後まで、よければお楽しみください!
シリーズ:もしもアッシュが記憶を無くした英二を追いかけて日本に来たら
『再会』 〜記憶を無くした僕を追いかけてきた君〜(18)最終話
第18話: 一緒に追いかける
英二はアッシュを庇った際、頭を打ってしまったことで脳震盪をおこして意識を失ったものの、結果としてそのおかげで過去の記憶が戻ったようだ。
頭以外は、打ち身と擦り傷があるものの問題はなさそうだった。今日は念の為に入院することになった。先ほどから英二の家族が病院を訪れ、医師から説明を受けている。
アッシュは病室を離れ、伊部に事情を説明していた。
「そうか、とうとう英ちゃんの記憶が戻ったのか。。。」
事故にあった英二を心配しつつも、記憶が戻ったことに驚いていた。
「怪我をしてしまったから喜んでいいのかどうか分からないが。。。この場合、結果オーライと言っていいのかな?」
伊部は苦笑した。複雑な心境ながらも、これで英二とアッシュが前を向いて進んでくれればと願っていた。
「記憶が戻ったのは、本当に奇跡だと思う。。。でもそれよりもあいつが意識を取り戻してくれて良かった。。。意識不明の時は俺も死ぬかと思った。。。」
アッシュの声は疲れているのか、掠れていたが 彼は心底英二の無事を喜んでいた。英二の記憶が戻ったことよりも、生きていてくれたことにただ感謝していた。
「記憶が戻ったとはいえ、問題は山積みだな。精神的なケアが必要になるかもしれないし、英ちゃんの進学の問題もある。。。。」
バナナフィッシュやショーターに関する記憶は英二にとって辛いものだろう。今後を心配する伊部にアッシュは意外とあっさり言い放った。
「あいつなら大丈夫さ」
「ん? いやに自信満々だな」
「あぁ。俺はこれまで危険だからと、遠ざけようとあいつの前に高い壁を作った。だがあいつはどれも軽々と飛び越えてきたんだ。。。その壁がマフィアのボスであろうと、どんな恐ろしい傭兵であろうとも。。。」
アッシュはかつて英二が跳んだジャンプを思い出していた。
「フフッ、確かにそうだよな。英ちゃんはそういう子だ。。。」
伊部は思い出していた。どこまでも真っ直ぐな瞳と純粋な心で英二がアッシュを守ろうとしてきたことを。
「あいつは錆びた水道管や銃も使って俺を助けにくるんだ。そんな奴、他に探したっていなかった。。。芯が強いあいつなら、大丈夫さ。それに今は俺もあいつのそばにいる。。。」
ハッキリとアッシュは英二のそばにいると断言したことに伊部は彼の変化を感じ取った。以前は見守るだけで良いと言っていたが、今は英二の人生に関わっていくつもりらしい。
「アッシュ、何だか変わったな。。。吹っ切れたのかい?」
少しだけ揶揄うような口調で伊部はアッシュに聞いてみた。
「俺はもう諦めたんだ。。。あいつから逃げることを。。。俺はこれまであいつから逃げることばかり選んできた。でも今は、、、あいつと一緒に生きたいと思うんだ。。。多少の不自由さも文化や言葉の違いも喜んで受け入れるつもりだ」
アッシュは英二を追いかけて日本に来る際、日本語をマスターしてきたし、日本文化や習慣も学んできた。
「これからは俺が英二を追いかけると決めたんだ」
「君は努力してきたと思うよ。真っ当なビジネスをして、英二が生まれた地域のことや彼を育ててくれた地元の人のことを知ろうと交流してきた。。。これまでの苦労がようやく実って嬉しいよ」
これまでの苦労や努力を見てきた伊部は素直にアッシュを褒めた。
「出雲に来てからも、あいつを見守るという理由をつけて本人に会いに行けなかった。語学学校の開講準備を言い訳にぐずぐずしてたのさ。。。。あの日、俺は理由もなく出雲大社に向かっていた。。。英二が残したお守りを見て懐かしく思ったからなのか、それとも他に理由があったのか、本当のところは分からないが。。。ひょっとして出雲の神様が英二に会うよう仕向けてくれたのかもしれないが。。。」
「そうだよ、英二は言ってたよ。アッシュは日本に来れば幸せになれるって。出雲の神様も守ってくれるって。。。」
かつて英二と出雲話をしたことを思い出したアッシュは心が穏やかになるのを感じた。
「そうかもしれないな。偶然の出会いに戸惑ったが、便乗させてもらったぜ。記憶のないあいつが俺を受け止めてくれるのかどうかなんて分からないが、あいつは優しいからひょっとして友人の一人くらいならなれるかもしれないって期待したのさ。。。」
「君たちは色々あったからね。きっと出雲の神様が ”いい加減に向き合って二人で幸せになりなさい”と 言ってくれたのかもしれないよ」
伊部はタバコの煙をふかしながら、これからの二人がどうなるのか自分は遠くから見守ろうと、新たに増えた楽しみに一人ほくそ笑んでいた。
***
英二は翌日、無事に退院した。念のために精密検査を後日受けることになっているが、日常生活には問題がなかったので早々に病院を後にした。
語学学校リンクスに戻ると、大量の花束と見舞いの品、メッセージカードが届いていた。そしてスタッフから熱い抱擁を受けた。特にコングトボーンズは涙を目に溜めながら英二に抱きついてきた。
「英二ー!おまえ 大丈夫だったのかよ!? 心配したぜ!」
「アメリカのことを思い出したんだってな? 俺たちのことも?」
興奮しているのか、ぎゅうぎゅうに抱きしめられた上に早口で捲し立てられて英二は苦しくて咳き込んでしまった。だが、アメリカで世話になった彼らに再び日本で会えたことが嬉しくて英二も涙ぐみながら抱きしめ返した。
「もちろん覚えているよ! ボーンズはフレンチフライに大量のケチャップをつけて食べるのが好きだった。時々コーラにも浸して食べてたけどあれは見ていて気持ち悪かったなぁ。それにコングはキャラメル味のポップコーンが大好物だったよね?ドーナツの穴にポップコーンを詰めて一口で食べようとした時は焦ったよ。。。。」
「おまえ。。。本当に覚えているのんだな!?」
「あぁ、英二ぃぃー!」
アパートで過ごした懐かしい記憶を英二が覚えていたことに改めて二人は感激して、再び英二にハグをした。
再びカフェの準備にとりかかった英二は忙しく働いていた。その一方でチラチラと色々なことが頭をよぎっていた。
(いまは目のまえのことに集中だ!)
頭を左右に振って、仕込み作業に取り掛かった。
***
仕事が終わり、片付けを終えた英二はスタッフと別れを告げて学校を出ようとしたが、カフェに携帯を忘れたことに気がついて取りに戻った。
今朝からずっと気になっていたことがあり、周りに誰もいないことを確認した英二はソファに腰掛けた。
(ちょっとだけ今調べよう。。。)
彼はごそごそと携帯をとりだして、検索し始めた。
「うーん、この学校は働きながら通うこともできるのか。。。でも勉強に専念したいしな。。。広島に岡山。。。大阪もあるなぁ。いっそ東京まで行けば伊部さんもいるから色々教えてもらえそうだけどなぁ。。。」
カメラ専門学校の一覧を眺めながら、英二はどこに学校があるのかを地図で確認しはじめた。
「うーん、どこも出雲から遠いよな。。。。一番近いのはどこだろう?」
携帯の画面に集中しすぎていた英二は、背後から音もなく近づいてくるアッシュに全く気づくこともなかった。彼はニヤニヤしながら英二の背後に立ち、耳元に口を近づけて言う。
「何を熱心に調べてるんだ?」
「うわぁ!」
突然背後から声がして、しかも敏感な耳元に息がかかり英二は飛び上がった。すぐ真後ろに立っていたのがアッシュだから安心したものの、慌てて携帯を背中に隠した。
「なんでもないよ!」
「ははーん、さては。。。いやらしい画像か?」
ニヤつきながらアッシュは英二に聞く。
「ちがう!」
英二は顔を真っ赤にして否定した。フフンと鼻で笑ったアッシュは急に真面目な表情になって英二の目をまっすぐに見つめた。
「隠すなよ、オニイチャン。。。専門学校を調べているんだろう?」
挙動不審な英二の行動などお見通しといったアッシュの態度を見て、英二はあっさりと認めた。
「まぁね。。。大きな学校だとやっぱり出雲から遠くなっちゃうなぁって。。。君たちに会えなくなるのも寂しいし。。。」
そう言いながら英二はちらりとアッシュを見たが、彼はふっと笑った。
「俺のことは心配しなくてもいいぜ」
「え。。。?」
あまりにあっけらかんとした表情で言うアッシュに、英二は意外な反応だと思った。
「どうせお前のことだ。俺や仲間がちゃんとやっていけるのか心配したんだろう?」
「うん。。。。まあ。。。でも僕もアッシュのそばにいたいというのが本心なんだけどね。」
”君たちが心配だ”と言ったが、英二の本音はアッシュが心配だし彼と離れたくなかった。
「英二、おまえはどこへでも好きなところに行けばいい。おまえはおまえの道を進むんだ」
アッシュは「ほら、これ。」と言って一枚の資料を英二に手渡した。
そこにはカメラの専門学校の一覧表が記載されていた。国内はもちろん、NYや近郊の学校までデータをまとめてあった。
「これって。。。学校リスト? ひょっとして君がこの資料を作ったのかい?いつのまに。。。しかも日本だけじゃなくてNYもあるじゃないか。。。」
「ただ検索一覧をコピペしたわけじゃない。過去の生徒の受賞歴や就職率、講師のスキルや卒業生の満足度データを分析して、おまえにふさわしいアーティスト系の大学と専門学校を調べておいた。。。」
忙しいアッシュがそこまで自分のためにしてくれたことに英二は感無量だった。
「ありがとうアッシュ。。。忙しい君にこんなことさせて悪かったね。でもちゃんと目を通してしっかり考えるよ。。。あはは、この年での入学じゃあ、きっと全員年下だなぁ。。。」
礼を言ったものの照れ臭くて思わず自虐ネタを言う英二にアッシュは何を今更と言わんばかりに大げさい呆れながら答える。
「大丈夫、誰よりも年下におまえは見えるから気にするな」
「そんなこと言って欲しかったんじゃないよ!」
英二は握りこぶしを作って怒りをアピールした。
「あはは!」
「。。。でも、本当にいいのかい。。。? せっかく記憶が戻ったのに。。。」
やはり心配そうな英二にアッシュは晴れ晴れとした表情で言う。
「おまえは何も心配するな。俺はただ。。。お前を追いかけるだけだ。」
「ーえっ?。。。どう言う意味?」
アッシュの言っていることが理解できずに英二は聞いた。
「NYから俺がーわざわざ日本語を学んでお前に会うために日本にやってきたんだぜ? この狭い島国ならすぐに会いに行ける。NYならもっと簡単だ。リンクスの次の支部を作ってやるよ。」
「君。。。また次の学校を作る気なのかい?それって僕のために。。。?」
「広島校、大阪校もいいな。東京なら本校があるからそのまま使えるな。アメリカなら日本語学校を作ろうか。」
どこか楽しそうにアッシュは新しい支部のプランを練り始めた。
「君って。。。。。。」
はぁと深いため息をつきながら頭を垂れた英二に気がついたアッシュがハッと我に返った。
「なんだよ!? 呆れたと言いたいのか!?」
調子にのりすぎたと少々焦りを感じながらアッシュは英二の次の言葉を待った。だが英二はゆっくりと頭をあげて、アッシュの顔を満面の笑顔で見つめる。
「そうじゃないよ。。。君は。。。僕の最高の友達だよ!!ありがとう!!」
感激のあまり英二はギュッとアッシュの胸に飛び込んで彼を抱きしめた。
「うわっ!っとと。。。」
予想外の反応と衝撃に面食らいながらもアッシュはしっかりと英二を抱きとめてその背中を手で支えた。
「覚悟しておけよ?誰かを追いかけるのも楽しいもんだな。。。まぁ、俺が追いかけるだなんておまえ限定だけど。」
「な、何恥ずかしいことを言ってるんだよ! まるで僕が君から逃げ回っているみたいじゃないか。僕は一度も君から逃げたことなんてないよ」
「あぁ、オニイチャンはいつもそうだったな。これは俺の問題だ。俺がお前を追いかけたいだけなんだよ。きっと。。。。いつかお前を飛び越えるようなやつになれたらって思う。。。」
英二がアッシュの額をデコピンする。
「イテッ!何するんだよ?」
真剣な顔をして答えていたのに、何をするんだと言いたげな表情でアッシュは英二を睨みつけた。
「もうとっくに飛び越えているよ? 僕たちはお互いを追いかけっこしていたんだね。きっとこれからもそうさ。。。だから切磋琢磨して一緒に追いかけようぜ?」
「一緒に。。。何を?」
「僕たちの”幸せ”を探すのさ! さ、行こう」
英二はアッシュの手を取った。
「っと!どこへ行く気だよ?」
ぐいぐいと引っ張られたアッシュは不思議そうに首を傾げた。
「そうだなぁー。まずは僕の家族に君を招待したいな!まだ会ってないだろう? それから僕の部屋で飲み明かそうぜ?まだ記憶が飛んでる部分があるかもしれないから確認もしたいし。。。」
「それがお前の幸せ探し?」
アッシュは苦笑した。英二がそばにいるのならもうアッシュに怖いものはないし、とっくの昔から幸せだった。だが、瞳を輝かせながら英二は二人で更に幸せになろうと言ってくれる。英二なら必ず自分を導いてくれるだろうとアッシュは信頼していた。
「幸せの。。。ほんの一部さ。まだまだ僕は君と一緒にしたいことがある。。。君は?君はどうしたい?」
英二はアッシュの意思を確認するために顔を覗き込んだ。
「そうだな。。。おまえの昔の写真がみたいな。棒高跳びをしている頃の。。。伊部さんが撮ったというポスターも見せてくれ」
「それだけ?」
(なんて小さな希望なんだろう)
英二も苦笑した。アッシュには欲がなさすぎるのではないかと思う時があった。だがこれからは彼も変わっていくだろうという希望もあった。まずはアメリカで叶わなかったささやかな夢を叶えようではないか。
アッシュは穏やかに微笑んだ。自分の希望を素直に言えることがただ嬉しかった。
「それも幸せの一部さ。まだまだあるけど。。。これからゆっくり味わっていきたい。。。」
これまでのアッシュの人生を思うと信じられないほど前向きな答えだった。アッシュの魂は生きる希望を再び持ち始め、美しく輝きだした。英二は泣きそうになるのをこらえて優しく微笑みながら頷いた。
「じゃぁ、すぐそこのコンビニで家族へのお土産とビールを買って、奥村邸へ行こうぜ!母さんたちに連絡するよ」
「OK。よろしくな、オニイチャン!」
「もちろん!」
二人はハイタッチをして、少年のように無邪気に笑いながら学校を出て、駅前のネオン街に消えていった。
*終*
(あとがき)
お読みいただきありがとうございます!正直更新がしんどくてたまらなかったのですが、アニメの影響か、信じられないほど拍手や応援コメントしてくださる方が増えて、なんとかご希望に答えたいと言う気持ちで連載してきました。
今回は、とにかくアッシュが積極的に追いかけてくる話にしたかったのですが、最終的には二人が手を取ってお互いの幸せを追いかけてほしいなという願いをこめました。英二がどこの学校にしようが、アッシュは追いかけてくるでしょう。。。こうしてリンクスの支部がどんどん増えていくのかな?(笑)私の妄想にお付き合いいただきありがとうございました!ちょっと疲れたので更新ペースをゆっくりにさせていただきますが、またおつきあい頂ければ幸いです
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