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二人は軽いジョギングをはじめた。全身に当たる風が気持ちよく、アッシュは走りながら歌いはじめた。
Take me away
Come on and fly me away
Take me up so high
Where eagles fly
music >> Where Eagles Fly
気持ちよさそうに歌うアッシュの横顔を英二はチラリと見た。
「アッシュ、ご機嫌だな。誰の歌だい?」
「VAN HALENのVocal、サミー・ヘイガーのソロの曲。 『Where Eagles Fly』さ。お前、知っているか?」
「聞いた事あるよ。僕もジョギングする時は、音楽を聴きながら走っているよ。君と一緒だね」
「……」
英二が言う『一緒だね』という言葉に照れくささを感じて、アッシュはスピードをあげた。
「あ、待てよ、アッシュ!置いていくなよ」
「おっせーぞ、英二!」
からかうようにアッシュは叫んだ。
***
英二はよくトレーニングをしていたコースを選んだ。家の近所に丘があり、二人は坂道を登りはじめた。
「ここはいつも僕が走っていたコースだよ。途中ですごく綺麗な場所があるんだ」
「へぇ……楽しみだな」
丘の頂上は小さな公園になっていた。広場で二人はストレッチをはじめた。
「ちょっと休憩しようぜ」
アッシュはベンチに腰掛けた。
「うん。この公園は妹とよく遊びに来たんだよ。このブランコ、まだあるんだなぁ」
随分錆びていたが、子供の頃に妹と一緒にのって遊んだ記憶がよみがえってきた。
英二はブランコに乗ってこぎはじめた。ぶらぶらと揺れるブランコを見ているとアッシュが興味を持ったようだ。
「俺もやる」
アッシュが隣のブランコに座ってこぎはじめた。
「ははは、これ、楽しいな」
「そうだろう?」
英二も楽しそうにブランコをこいでいる。
「――なぁ……昨日は悪かった、許してくれ」
「許すって何を?」
「お前に冷たい態度をとってしまった事だよ。子供じみていた」
「あぁ、別に……もう気にしていないよ」
「あのさ、ちゃんと言っておきたいんだ」
「何を?」
英二がアッシュを見つめた。
「……」
(じっと見るなよ……言いづらいじゃないか……)
照れくさかったが、どうしても伝えないといけないと思い、アッシュは言った。
「あいつと――水野と楽しそうに喋っているのが嫌だったんだ。あいつとお前は俺の知らない『棒高跳び』でつながっているだろう。俺には分からない世界だ」
「……」
「あいつはお前との健闘をたたえてユニフォームをあげたけど、俺はお前に何もあげられるものはない……それが悔しかった」
英二はその言葉に驚いたようでしばらく目を見開いたまま黙っていた。
「……なんとか言えよ」
「いや、意外だなと思って…ははは。僕こそ気が付かなくてごめんごめん!」
(そんな事、思っていたんだ。全く想像もしていなかったや……)
英二はブランコから降りてアッシュの傍に立った。そして彼の頭を撫ではじめた。
「な、なんだよ?」
アッシュは何だか恥ずかしくて英二を睨みつけた。しかし同時に兄のグリフィンと英二が重なって見えた。
「いーじゃんか、こうしたくなったんだもの」
英二はにっこりと笑った。彼の指先から温かさが伝わってくる。英二に自分の子供っぽい部分――独占欲や我儘を許してもらい、自分の弱点を受け入れられたようにすら感じた。
「よしよし」
「子供扱いすんなよっ!」
アッシュは真っ赤になって怒った。
「あのさぁ、僕……君からいっぱい貰ってるよ」
「え?」
「例えば 君と出会った事、危険な目に遭った事、辛い経験も全て……。君と過ごした日々その全てが僕にとっては何物にも代えがたい貴重な宝物なのさ」
「英二……」
「まだまだ僕の宝物を増やすつもりさ。もっと君との思い出を作りたい。色々連れていきたい場所がある……だからつまんないことで悩んだりへばったりするなよな」
「……」
「約束だぞ」
「分かった」
「よし、じゃぁさっそく思い出をつくろう!アッシュ、ブランコで勝負しよう!どっちが高くこぐことができるか勝負だ」
英二はそう言ってブランコを勢いよくこぎはじめた。
(……え? いきなり勝負?)
アッシュは呆れつつも頬が緩んでいた。
「悪いが英二、俺はブランコが得意だ」
ニヤッとアッシュは笑い、その笑顔を見て英二も笑った。
「「勝負!」」
アッシュも負けまいとブランコに飛びのった。
<続>
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やっと仲直りしましたよ♪ 結構長かったですね(^^)。