「ありがとうございます」
丸ごとで渡されたポケティに
とりあえずのお礼を言いつつ
成る程
丸ごとだったのは
まだ開封されていない
新品状態だからか
と
切った指
かばいながら
ミシン目の開封部分
指先でつまんで
すべって
つまんで…を
繰り返していれば
「…あぁ…貸して」
客員教授が
コピー機の紙のトレーから
作成した資料
取り出してた手を止めて
こちらの手伝い
申し出てくれた
の
…いや…
と
断りかけた
も
元の持ち主に
ポケティ
手渡して
開封
促せば
客員教授は
ミシン目ではなく
袋のお菓子
開くように
裏側の重なってる部分
力任せに
開いて
「…そのままここに
指を突っ込むといい」
…え?
それは
随分と豪快な使い方で
「…いや
一枚でいいので…」
そのまま
一枚くださいと
開いたところを指さしつつ
流れ始めた
指の血液
一旦
心臓より高い位置に…と
顔の位置まで
手を上げれば
客員教授は
どうやら血が
苦手なようで
自分でやらないなら
って事か
有無も言わせず
流血中の指に
ポケティを袋ごと
かぶせると
「…この上から握って
止血しててください」
…止血…て
紙で切った程度の傷
余計な血を拭えば
傷口はくっつくから…
とか
思いつつも
言われた通り
サイズ的には
3倍になった指
キュッと握って
手のひらまで流れてた
血を
手首まで流さないように
手のひらを上にして
…後で手を洗わないと…
とか
思いつつ
自分が本来すべき作業
助教授がやってるの
眺めていれば
3枚になるところを
2枚で収まるよう
編集した資料
人数分
出力したデーターに
不具合がないなら
止まるまで
する事はない
…のだけれど
も
こういう作業
手慣れているのか
出てきた紙を
5人分ずつで
一括りに
受け皿のトレーからコピー機の上に
縦横で重ねつつ
ニコイチを
左隅で止める作業
しやすく
枚数確認も
しやすく
…なる
下準備を披露され
「…こういうの慣れてます?」
客員教授は元々
研究者であることは
承知していた
も
こういう事務的な仕事には
触れていないと
思っていた
から
手際の良さに
つい
触れれば
「…学生の頃に
こういうのはやってきてるから」
年が近い事
ふと
こういう瞬間
…そうだった
って
既視感に感じつつ
助手の癖に
手際の悪い様子
見てて
…呆れてたりしたのかなぁ…
等と
どうしても
引け目ばかり
感じてしまうの
自分が小物に感じて
初手で指切るとか
…と
凹んでいれば
「…おさきぃ」
先にこの場に居た
他の研究室の助手が
部屋を出る際
声を掛けながら
出て行くのを
「お疲れ様です」
反射的に応えて
トントンと
紙の束
揃える音
に
客員教授の様子
想定しつつ
自分の手の様子
握ってたポケティから
引き抜いて
見てみれば
「…止まってる」
止血された様子に
ホッとすると同時に
「ありがとうございました」
いつもなら
止まるまで放置の
コピー機の前で
持ち帰りやすい
資料のまとめ方してる
客員教授に
声を掛けつつ
使ったポケティ
返す訳にもいかず
…この後コンビニで買って返そう
と
時計にチラリと目をやってから
使用済みのポケティ
ケツポケットにねじ込んだ
つづく